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第6章19 [宇宙人になっちまった]

「僕はいいと思う」
 伊東氏が一番に賛成した。続いて残りのスタッフも一人残らず賛成した。後は話す内容を詰めなければいけない。
 番組表はもう何の意味もなくなった。キャスターもいなければ、ニュース映像も届かない。今は録画済みの映像を流し続けている。もう少しお待ちくださいと時々テロップが流れる。できるだけ早く放送を再開して国民を少しでも元気づけたい。伊東氏は三十分後に緊急放送の開始を決めた。エフには話す内容をスタッフが伝えている。細かいことは浜辺や敬一が丁寧に伝えることになった。
夜九時になった。画面が切り替わり緊急放送の文字が画面いっぱいに映し出され、注意喚起する音声も流れた。進行役は伊東が務めることになった。ヘリポートからの生中継だ。
カメラ、音声、照明、スイッチャー、モニター全員がスタンバイ状態で待っている。キューが出た。
「皆さん、ここは放送センター屋上のヘリポートです。日本は消滅していません。これからわたしたちの日本が蘇ります。今、復活のキーマンが来ます。みなさん、驚かないで落ち着いてご覧ください」
 伊東はそう言って空を見上げ一点を指さした。カメラが暗い上空に向けられた。幾つか星の瞬きが見える。合図で三基のサーチライトが一斉に上空を照らしたが、光の先は闇に吸い込まれて何も見えない。三本の光の矢が交わった辺りに銀色に輝く物体が光を反射しているのが見え始めた。光を反射しながらゆっくり降下してくる物体の姿が露わになり、誰の目にもそれが円盤だとわかるようになった。
 敬一は、息を潜めながらこの映像を見ている人々を思い浮かべた。映画でも作り物でもない本物の円盤が徐々に大きくなり、ついにヘリポーに着陸した。陶器のようになめらかな機体がスポットを浴びている。
「みなさん、これは特撮でも作り物でもありません。地球外からの訪問者です。本物の円盤です。中から出てくるのは紛れもない宇宙人です。我々と多くの共通点があります。驚かないでください。中から出てくる宇宙人は我々の友達で、キルケと戦う仲間です。この日本を蘇生するために来てくれました。我々の味方です」
 伊東が話し終えると、誰も動かず時間が止まったように円盤を見ている。放送局のスタッフはリハーサル済みだが、テレビの前の人にとっては世紀の瞬間だ。人類史上、最も重大な瞬間だ。
 カメラの向こうで、その瞬間を見逃すまいと見つめている人がどれほどいるだろうか。だが気がつけば小柄なエフが円盤の端に立っている。一瞬だった。誰もその瞬間を目にした人はいないだろう。おそらくスロー再生しても同じだ。
 見た目は肌の色も服装も日本人の小学生にしか見えない。
カメラが足もとから上半身に向かってゆっくりパンしている。上半身がアップに映されたとき合図が出された。生中継だから全てが初めてのように見えるが、この場面もエフと緻密に打ち合わせ済みだ
「「やぁ、僕の名前はエフだよ。僕はここからかなり遠いところから来たんだ。この円盤に乗ってね。光の速さで何万年もかかるところだよ。僕の星の近くにはたくさんの友達がいるけどね、この地球という星は僕の世界では一番端っこなんだ。だから遊びに来る人は誰もいない。僕くらいだよ。一番美しい星なんだ。だから誰にも教えたくない。でも見つかっちゃった。キルケって名前だよ。僕と君たちはよく似ているけどキルケは全然違う生き物なんだ。知ってるよね、キルケはこの星を壊そうとしているんだ。僕と一緒にキルケと戦ってくれる友達を紹介するね」
 エフはそう言うと敬一たちを指さした。浜辺が代表してユニコ会の説明とサードブレインの話をした後で大事な宣言をした。

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