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第1章09 [メロディー・ガルドーに誘われて]

「楽しそうにやってるな、俺も入れてくれよ」
 汗を拭きながらコップを手に持ちやって来た。マスターにはまだ名前も言っていないのにもう旧知の仲のように接してくれる。祐介はマスターに向き直り、簡単に自己紹介とお礼を言うと、
「いいよ、いいよ。紗羅が気に入ったんだから間違いはないよ。飲もう、飲もう」
 と、威勢よく肩を叩かれた。
「谷野祐介君か、ジャズは好きかね」
 カズが祐介の顔を覗き込むようにして訊くと、
「好きなんて言ったら大変よ、朝まで聴かされるからね」
 と紗羅は祐介が返事をする前に予防線を張った
「まぁ、時々聴く程度です」
 祐介が二人に気を使って返事をすると、
「そうか、それならジャズの定番から始めるとするか」
 カズはそう言うと棚にあるレコードを選び始めた。
「今日は飲むんだからね、ジャズはこの次よ」
 紗羅が言うと、
「かけるだけだからさ、何も講釈しないからいいだろう?」
 カズはそう言いながらも次々にレコードを取り出して選んでいる。
「じゃぁね、楽しいのにしてね、重苦しいのは勘弁よ」
 紗羅が言うと、
「重苦しいなんて言うなよ、重厚とか、魂を揺さぶるとか言って欲しいね。祐介君もそう思うだろう?」
「ええ、まぁ、そうですね。バラードも好きです」
「それはいいね、決まりだな。コルトレーンのバラードにしよう」
 カズはそう言うとターンテーブルに盤を乗せ、慎重にアームを動かした。店に置いてあるスピーカーも堂々としていたが、このリビングのスピーカーも相当年季の入った趣のある代物だ。アンプも年代物で、真空管が何本もむき出して立ち、下の方がほんのりオレンジ色に光っている。
「紗羅さんもジャズが好きなの?」
 祐介が訊くと、
「そうね、父も好きだったからね、子どもの頃からいつも耳に入ってたかな。だからジャズは生活音みたいなものね」

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