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その(4) [小説 < ツリー >]

Braun マルチクイック プロフェッショナル MR5550MCA 

Braun マルチクイック プロフェッショナル MR5550MCA

Braun (ブラウン)

 

                          その(4)

  物音で目が覚めると台所に立つ加代子の後ろ姿が見えた。台所といっても小さなシンクに粗末なガス台があるだけである。時計を見ると3時だった。時間に縛られない生活でも時間を気にするのはどうしてだろう。まるで死へのカウントダウンをしているようだ。
「何も食べてないんでしょう?」
「ああ」
「すぐ出来るからね」
 加代子の肩には何も見えない。キャンパスに行かなくなってから、週末や休講になった時には必ず来て世話を焼いてくれる。もういい加減俺に愛想を尽かしてもいい頃だと思うが、俺が加代子に対して冷たくすればする程、情愛を鍛え上げ着実に何かを積み上げてくる。積み上げたモノを何度も蹴飛ばし崩したがそれでもまた営々と積み上げ更に強固にしてくるのだ。
 台所に立つ加代子の後ろ姿が裸に見え、身体のあちらこちらから血が滴っている。なんだか難しい名前の粉を使ったスパゲッティを作っているが、加代子が調理しているのは自分の肉なのだろう。料理を作る事も食べることも性行為なのだ。

 俺は黙ってふくよかな胸の肉や内太股の白い肉を食べた。肉を口へ運ぶのを見るのが好きなのだろう、口に放り込むたびに目が潤んだように光る。食事を作る度に加代子はやせ細り、削った肉を補うためにせっせと脂肪を身体に溜め込むのだ。男に食べられない女は脂肪が増えて身動き出来なくなってしまう。料理の上手い女は自分の味付けに才能を発揮するが、付き合う男が味の分かる男かと言えば決してそうではない。

 食べ終わるといつもの日課であるかのように手作りの粗末なシャワーを浴び、その間に加代子は後かたづけをし、俺が布団にはいると加代子はシャワーを浴びて横に潜り込んでくる。加代子は悲鳴を何度かアパートに響かすと大人しくなる。会話らしいことをするのはそれからなのだ。セックスをしなければ何事も始まらない。終わった後も加代子はねだるように俺の一部分を弄んでいるが、もう一度試みる固さにはならず、ほどよく目覚めさせる程度である。

「俺さぁ、変なもんみたよ、巨木の下の花束。どう見たって自殺の現場でさぁ、最初は身震いしたけどね、見ている内に慣れて、慣れると妙な具合で古い友達に会ったような感じがするんだよね。」

「それって、首つり?」
「もしかして殺人なんて事もあるかもね。、桜の木に縛り付けてリンチ、首つりに見せかけた殺人、恋人を誘い出してグサリなんてね。これから行こうか。」
「冗談やめてよ」
「いや、決めた、行こう。」
「何で行かなきゃ行けないのよ」
「俺の秘密の場所へ行きたいっていってたろう、いいからついて来いよ。タバコとワインを持って行くから。お供え物すればそこでHしたってバチ当たらないよ」
「ふざけないでよ、もぉー」

 怖い物見たさもあるが、ちょっとした期待もあり一緒に行くことにした。辺りはすでに暗く加代子は俺の手を握りながら歩いている。握った手の僅かな動きから気持ちが伝わってくる。料理と同じでもう加代子の中ではスイッチが入っているようだ。
「あの木なのね、凄いわ」
「ああ、見事な奴だよ」
 ひときわ高く空に向かって伸びているシルエットは遠くからでもそれと分かる。笹を避けながら細い道を通りようやくたどり着くと、その根本には花束らしき物が幹に立てかけてある。加代子は俺の後ろに立つとしばらく見つめていた。

「ここに誰かいるような気がする。きっと一人だったら逃げ出しているわ」
「ああ、いるかも知れない」
 だが、そんなことはどうでもいい。加代子の言うことは無視して、いきなり抱き寄せ木に押しつけた。誰が見ていようと聞いていようと構わない。今はこの荒々しい欲情を混沌とした宇宙と得体の知れない暗闇に撒き散らし征服したかった。期待を裏切られ続けた事への復讐のようでもある。
「やめてよぉ」                       
 閉じた腿をこじ開けるように手を入れると中は熱いものが滴り落ちそうになっている。敏感なところに少し触れると膝の関節が壊れかけたように動き、倒れないように支えながら後ろを向かせると、加代子は桜の木にしがみついた。俺も加代子をサンドウィッチにするように桜の木にしがみついた。

 

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