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悲劇のブタが生まれた(3) [小説<恋なんて理不尽な夢>]

                                 悲劇のブタが生まれた(3)

 私は絵里子の肩を揺り動かしたが、その手はどう見てもブタの前足だ。何がどうなっているのか、悪い夢を見ているとしか思えない。絵里子は私を無視するかのように手を払いのけた。自分の身体をもう一度確認したがやはりブタとしか思えない。いや、私はブタ以外の何物でもないように思える。顔が見たい。夏のボーナスをつぎ込んで整形した私の顔が見たい。鏡はどこなの? 室内を見回すと鏡は見つけたものの目線より高いところにある。あれじゃ見えないわ。もう一度見回すとテレビを見つけた。あの黒い画面に映せば見えるはずだわ。ベッドから床に飛び降りたがテレビも少し高い。ローテーブルがある。あの上に乗ればきっと見える。ひょいと飛び乗りテレビに顔を向けた。

<あぁ~! 何よ! 嘘よ、嘘! あり得ない、きっと何かの間違いだわ>
 私は何度も何度も振り返っては見直した。だけどテーブルの上には黒い小さなブタが乗っているだけだ。私はどこに行ったのよ、絶対あれは私じゃないわ。だけど、私の見ているのは紛れもない黒いブタ………てことは………私はブタの中にいる? つまり、つまり、………私はブタ? なんで、なんでこんなことになったのよ。私が何をしたって言うの?悪いことなんかしてないわ、そりゃ少しはしたけど、でもそんなの小さなことばかりよ。こんな酷い罰を受けるようなことじゃないわ。私は俊介と決めデートをしてただけよ。あの時だわ。急に車が動き出して海に落ちて………苦しくなって………あぁ、思い出せない。私は死んだの? いや、ここに生きてるわ、でも、でも私はブタじゃない、人間よ。ブタの私って何なの? 
<もう、いやー!>

「花子! 花子! うるさいわね、何を走り回ってるの?」
 絵里子が頭を掻きむしりながら起き上がってきた。私の、違う、このブタの名前は花子らしい。絵里子が私を捕まえようと手を伸ばしてきた。何で私が絵里子に捕まえられなくちゃならないのよ、あんた、私の後輩でしょ。仕事だって教えたし、恋愛の相談にも乗ったじゃない。何でよ! 何で! 
「待て、花子! お座り! お座りったら、お座り!」
 絵里子はしつこく追いかけてくるが、もうどうなってもいい。全力で走り回れば元の私に戻れるような気がした。心臓が止まるまで走ってやる。
「姉ちゃん、朝からうるせぇよ」
 誰か若い男が部屋に入ってきたが、そんなことは構わない。私はその男の膝に鼻から突っ込んだ。
「痛ぇ! 何だよ!」
「花子を捕まえて!」
 運動神経の鈍い絵里子はかわせそうだが、男は敏捷に手を伸ばしてくる。身体があちこちぶつかって痛い。それでも捕まりたくない。ドアが開いた。思いっきり飛び出そうとしたら、頭を押さえられ、必死で藻掻いたが両手で抱え上げられた。頭の禿げたオヤジが嬉しそうに笑っている。
「花子、どうした? お腹空いたか?」
 なんだこいつ、絵里子のオヤジか? なんか酸っぱい匂いがして気持ち悪い。

 

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