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悲劇のブタが生まれた(4) [小説<恋なんて理不尽な夢>]

                           悲劇のブタが生まれた(4)

 結局私は絵里子に連れられ散歩に行くことになった。何を言っても鳴き声にしかならない。勘の悪い絵里子は何も気がつかないし騒いだところでどうにもならない。情けないけどしばらく様子を見るしか無いみたいだ。
 向こうから白い大きな犬がやって来る。確かゴールデンレトリーバーとか言う種類だ。
大人しくて飼いやすいらしいけど私は好きじゃない。と言うより犬が嫌い。特に理由はないけど、今まで犬を飼ったこともないし、これからも飼おうなんて気はない。犬の為に貴重な自分の時間を割いて散歩に行くのも嫌だし、動物の世話なんて考えただけでもゾッとする。
 絵里子が優しい声で挨拶をして、ゴールデンは私を睨みながら近づいてきた。
<もうどうにも何ねぇよ、諦めて気楽にやんな>
 え? 犬が話したの?
<ちょっと待って!>
 私は振り返って叫んだが、鳴き声にしかならない。絵里子は強引に引っ張り先に進もうとする。ゴールデンは振り返りながら歩いていったが、哀しそうだった。もう何がどうなっているのか頭の中が混乱してきた。自分の境遇が余りにも突飛すぎるし理解の範疇を超えている。とにかく元の自分に戻りたい。そうだわ、来たのなら戻る道もあるはず。絶対そうよ、何か元に戻る方法があるはずよ。あのゴールデンと話したい。ほかの犬も話せるかと思ってすれ違う度に声をかけたが、他に話せる犬はいなかった。

 散歩が終わると家の中では自由に出来る。何とか私のことを知らせようと考えたがいい方法がない。絵里子をじっと見つめれば何かを感じ取ってくれるかと期待したけど、頭を撫でられペットフードをくれただけだった。元々鈍感な絵里子だが話にならない。この手では文字も書けないし、キーボードも打てない。仕方なく絵里子のベッドに乗り色々思い返してみた。
 俊介と車ごと海に落ちて苦しかったことはありありと思い出せる。だけどそこからあとは何一つ思い出せない。突然絵里子の部屋に飛ばされた感じだ。しかもブタの姿だ。私は、いや、私の身体はどうなったんだろう。あ! 今日は日曜日だって絵里子が言ってたし、リビングのテレビでは歌手の岬千香の挙式が今日だと放送していた。
 と言うことは………私が俊介とデーとしたのは昨日で、海に落ちたのは深夜。もし死んでいたら絵里子に連絡が入るはずだし、こんなにのんびり散歩なんかしていないわ。でももし誰にも発見されずに海の底に………あり得ないわ。あの岸壁には私たち以外に三人いたから誰かが気がついたはずよ。
 嫌な胸騒ぎがする。暗い海の底から車が引き上げられ、中から水死体となった私と俊介が発見される。生きていようが死んでいようが二人は病院に搬送されそこで死亡宣告を受ける。家族にはすぐ連絡されるがそれで事は済まない。きっと家族は警察から事細かに事情聴取を受け、私は死因を特定する為に素っ裸にされるに違いない。やって来るのはスケベそうな中年の刑事だわ。そして隅々まで舐めるように観察されて、エッチをしたかなんてことまで調べられる。
 ああ、もうこれ以上考えたくない。毒物とか睡眠薬とか麻薬とかも調べられて、最後に解剖なんかされたら最悪。でもそうかも知れない。絵里子に何の連絡も来ないのはまだ解剖中だから? もうイヤ! 恐ろしくなって絵里子の布団に頭を突っ込んだ。 

 

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