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第1章05 [宇宙人になっちまった]

「ねぇねぇ、夢実、ちょっとこれ見て」
 いつもとトーンが違う。
「どうしたの?」
 並んで歩いていた夢実は絵里子の携帯を覗き込んだ。
「ユニコーン高校生だって、夢実と一緒じゃない。学年も同じだよ、どこの高校かなぁ」
 絵里子はそう言いながら夢実の頭を確かめるように見た。
「ユニコーン?」
 夢実は眉間に皺を寄せながら訊いた。
「ほら、子どもの頃絵本で見たことあるじゃん、頭にツノが一本ある羊か馬みたいな想像上の動物」
「それが何で一緒なの、私の頭にはツノなんかないし」
 夢実は頭に手を乗せながら言った。
「それに頭から変な光線出てるし、何なのこいつ、キモ!」
 夢実は怒ったように先を歩き出した。
「動画はやり過ぎだけどさぁ、ちょっとこの横顔見て、夢実と頭がそっくりじゃない」
 絵里子がうしろから携帯を見せると、
「そんなことないよ」
 と言いながら夢実はつい携帯を覗き込んだ。その静止画像で撮られた一枚は、頭頂部の髪の毛を立てて脳天の盛り上がりを隠している。夢実にはその高校生がちょっと変わった髪型をしている理由が見えてくる。多少は誇張されているのも分かった。自分と同じ悩みを抱えているに違いないと想像できる。
「ねぇ、似てるよね」
「う~ん、ちょっとだけね、私より盛り上がって見える」
 夢実はそう言いながらもう一度頭に手を乗せた。
「ねぇ、絵里子には思い切って話すけど秘密だよ、誰にも言わないでね」
 夢実は歩みを止めて近くのベンチに腰を下ろした。
「急に真面目な顔してどうしたの?」
「誰にも言わないでね」
 夢実は首をすくめるようにすると辺りに人がいないことを確かめた。
「わかった、絶対内緒にする」
 絵里子は夢実に身体を密着させるように座り直した。
「私、本当は宇宙人なの。頭のてっぺんが膨らんでるのがその証拠。絶対誰にも言わないでね」
 夢実が半分ほど話したところで絵里子がたまらず吹き出して笑った。
「そんなこと誰かに言ったらバカにされちゃうよ。頼まれても絶対言わないからね」
 絵里子がそう言って笑うと夢実も一緒になって笑った。
「でも本当に宇宙人だったらどうする?」
 夢実がもう一度言うと、
「本当だったら宇宙人のイメージ壊れるなぁ。運動神経ゼロで知能指数も低いし、なんか特殊能力ないの? 超能力的なやつとか」
「あるある、とびっきりの秘密能力!」
 夢実が自慢げに言うと、
「それ何? どうせ大したことないでしょ」
 と絵里子がつっこむ
「何言うてんねん、本場仕込みの値切りビーム発射できるし、笑かしビームは強力やで」
 夢実が負けずに言うと、
「それは宇宙人やあらへん、こてこての関西人や。正体バレたなぁ」
 二人はいつものように冗談を言い合って笑った。安藤夢実と梅原絵里子は小学校からの友達で家も近く、クラスも一緒で同じ仲良しグループだ。数人で学校を出るが、途中からは二人だけになり、別れる前にコンビニに寄るのが常だった。
 夢実は人気ナンバーワンのシューケーキを食べようと誘ったが、絵里子は誘いに乗らず雑誌コーナーで立ち読みを始めた。レジを済ませ雑誌コーナーに目を向けると、妙な違和感を漂わせている男を見つけた。絵里子の右隣に立っている。手に取っているのは成人コーナーの雑誌かも知れない。夢実は少し早足で絵里子に近づいた。

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