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第1章07 [宇宙人になっちまった]

「熱いコーヒーはいかが」
 カップコーヒーを持ちながら絵里子が戻ってきた。遅かったからしばらく様子を見ていたに違いない。
「もう自己紹介は終わったの?」
 絵里子が訊いた。
「そうだ、まだ名前言ってなかったね。僕は浜辺青磁、西川高校の二年。君たちの名前も聞いていい?」
 浜辺は暗そうで近寄りにくい雰囲気を持っているが、話してみるとそうでもなかったのだろう、最初は逃げ出した絵里子が饒舌に話し始めた。
「私は安藤絵里子で、友達は梅原夢実。二人とも綾高一年で、他には、家はこの近所ね。それで私の趣味は音楽で、ブラバンに入るつもり。中学校ではバレーボールやってました。浜辺さんの趣味は何ですか?」
 絵里子のスイッチが入ったようだ。気に入らなければ、体調でも悪いのかと心配するほど無口になるが、気に入ったときは別人のように饒舌になる。
「趣味か、これってなかなか言いにくいよね。音楽聴くのは普通に好きで、本だって多少は読むしね。運動系は、そうだなぁ、あまりやらないかも。一番関心を持っているのはこのコブかな。これがなかなか面白いんだ。だからちょっと気になって話しかけてみたんだ。雑誌コーナーで見たとき、すぐに俺と同じだなってわかったよ」
 浜辺は夢実の頭頂部を確かめるように見ながら話し、時々絵里子に視線を向けるが、関心があるのは夢実のようだ。そのことに気づいた絵里子は少し元気をなくした。
「このコブに病名があったんですね、知らなかった。でもこのコブのどこが面白いの? 隠すのに苦労しているのに」
 夢実は自分の頭を触りながら話した。
「そうだよね、そんなに面白くはないよね、特に女の子はみんな苦労しているみたいだね」
「他にも女の子知っているんですか?」
 夢実は似たような女の子がいると知って嬉しくなった。
「先月の定例会では、十人中女の子は四人だったかな、みんな高校生なんだ。これがコブの不思議その一。偶然かも知れないけど、まだ高校生以外で見つかっていないんだ」
「東京で十人? みんな高校生?」
 夢実が訊き、絵里子は大人しくしている。
「正確には東京近郊かな、千葉、埼玉、神奈川もいたかな。名簿上は十五人だけど、夢実さんが入ると十六人になるね」
「全国だとどのくらい?」
「地方のことは何もわからないんだ。病院の先生も情報が無いって言ってた。夢実さんはなんて診断されたの?」
「頭蓋骨腫瘍で良性だから問題ないって。気になるようなら手術で取れるって言われた。でもそんな手術は恐いからしないわ」
「ほとんどの医者はそう診断すると思うし、たいていの場合はそれで正しいよ。僕も最初は同じ診断名だったよ。でも親が心配性で、セカンドオピニオンで今の主治医の後藤先生に詳しく診てもらったんだ。そしたら今まで知られているどの症例とも違うことがわかって、学会で発表したり、会を組織したり、色々とやってくれたんだ。多分だけど、夢実さんは僕と一緒だと思うよ。後藤先生を紹介するから一度診てもらうといいね」
 そう言いながら夢実のコブを何度も触って確かめた。
「もし、浜辺さんと同じコブだったらこれからどうなるの?」
 夢実は少し不安そうに訊いた。
「まだ症例が少ないし、診断できる医者が少ないからなんとも言えないけど、今のところ、命に関わるようなことでは無いらしい。むしろその反対で、脳研究の立場からは新しい可能性が期待できると言われているんだ」
 こんなコブにどんな可能性があるんだろう。浜辺の話は少し大袈裟なように思えた。

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