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第一章(七) [小説<十九歳の呪い>]

                     第一章(七)

「念ということを説明するのは難しいのですが、そうですねぇ、電波のようなものですね。目には見えないけど、ある周波数で振動しなが空間にあるものです。チャンネルを合わせれば、そこに電波があることがわかるのです。念も電波によく似たもので、チャンネルを合わせなければわからないのです。誰でもそのチャンネルは持っているのですが、合わせるのはなかなか難しいのです。私は子どもの頃から、そのチャンネルが敏感で、すぐに受信してしまうのです。これなら学生さんにも少しはわかりやすいかと思いますが、いかがですか?」
 老人は俺の意地悪な真意を知りながら、穏やかに教えてくれた。だけど、こんな答えは誰でも言えることだ。これで老人に特別な力が備わっているとは思えない。
「自分に危険な念が纏わり付いてるなんて、正直よくわかりません」
 老人はしばらく考えていたが、俺の目を真っ直ぐ見つめて話した。
「もしも、健二さんがこの念を感じたとしたら、そのときは相当危険が迫っていると考えて間違いないでしょう。今はまだ大丈夫です。それまでにこの念の正体を見極めないと対処するのは難しいことです。しかし、間違いなく、健二さんの周囲には得体の知れない念が纏わり付いています。私の経験では余り時間はないと思います。急がないと手遅れになるかも知れません」
 これだ。これがインチキ霊媒師の常套手段だ。危険を煽って俺たちの判断力を混乱させるつもりに違いない。
「お願いします。手遅れにならないうちに何とかして下さい」
 お袋はもう老人の術中にはまって、畳に頭を擦りつけるようにして頼んでいる。百万と言われてもお袋は二つ返事で応えるだろう。
「わかりました。出来るだけのことはしましょう。しかし、このままではどうしようもありません。お母さんに一つ調べて頂きたいことがあります。荻野家の過去を調べて貰いたいのです。理由もなくこのようなことは起こりません。二百年もこのような不幸が続くのは余程のことではないでしょうか。私は明日お宅へ伺って家を隅々まで拝見させて頂きたいのですが、よろしいですか?」
 老人はもう決めたように言った。
「ありがとうございます。どうかよろしくお願いします」
 お袋はまた頭を畳みに擦りつけるようにして礼を言った。老人はお金のことはひと言も言わない。後でふっかけてくるのかも知れない。俺が注意をしていないとどれだけ要求されるか知れたものではない。

 その日はそれ以上何もなく、俺とお袋はバスと電車を乗りついて家に帰った。もう日は暮れて、陽子が一人で待っていた。
「お帰り、遅かったわね、霊媒師はどうだった? もう信じらんないわ、お母さんだってお兄ちゃんだって理系の頭でしょ。一体どうなってるのよ」
 陽子は俺たちの顔を見るなり、口を尖らせて言った。
「霊媒師とは違う。れっきとした祈祷師や。あの方は信頼できる。間違いない」
 お袋は断固とした口調で言った。
「お兄ちゃんはどうなん?」
「俺にはわからへん。どうやら俺は悪い念に取り憑かれとるらしい。急がんと死んでしまうらしい」
「そんなん、嘘や」
 陽子は怒ったように言った。
「明日その人が来てくれるんや。家の隅々まで見てもろたら、何かわかるかも知れん。それにな、急いで荻野家のことを調べなあかん。この家は古いからなぁ、昔の書き物とか色々あると思う。それを全部調べてもらえるかなぁ」
「もう、なんでや。仕方ないなぁ、その代わり、骨董品が出たら私がもらうからね」
 陽子はそう言ってしぶしぶ手伝ってくれることになった。お袋はもう気が気では無い様子で、夕食を済ませたらすぐかかって欲しいと言った。


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