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第1章04 [メロディー・ガルドーに誘われて]

「私が気に入らないの? いいじゃない! どうせ一人なんでしょ!」
 祐介が目を開けると、隣の女が大きな声を出している。時計を見ると三時を少し回ったところだ。
「このまま外に出て車に轢かれて死ねばいいのね、わかったわ」
 女はそう言うとふらつきながら立ち上がった。身体をテーブルにぶつけている。
「わかったよ、わかった。とにかく座って」
 店主は女をなだめるように肩を押さえるように座らせた。
「わかったらいいわ、水!」
 店主は諦めたように黙ってカウンターに行った。
「まだいたの? もう閉店よ。これからマスターの家に泊めてもらうわ」
 女が祐介に話しかけた。
「ここは朝五時までって書いてあるけど」
 祐介が壁に貼ってある紙を指さした。
「あんなの嘘よ、今日は私が決めるの。どこか行くところあるの?」
 女が祐介の方に身体を傾けるようにして言った。酒の匂いが漂ってくる。
「始発まだだし、別にない……」
 祐介が困ったように言うと、
「じゃぁ、いいわ、一緒に泊めてあげる。よかった、これで朝まで飲める」
 女はそう言うとカウンターを横目で見るとニヤリと笑って見せた。酒を飲んでいるのは本当だけど、それほど酔っていないのかも知れない。そう言っている間に店主が水を持ってきた。
「この人も一緒に泊まることになったわ、いいよね」
 女はそう言うと水を一気に飲み干した。
「お客さん、何を言われたか知りませんが、大丈夫ですか?」
 店主は祐介に申し訳なさそうに言った。
「僕は大丈夫ですけど、あの、本気にしてもいいんですか?」
 祐介は女と店主の顔を交互に見ながら話した。
「ほら、大丈夫よ、今日は閉店!」
 女が嬉しそうに言った。
「ここからタクシーで十分程です。私は独り者なんでお客さんが迷惑でなかったら紗羅に付き合ってやってください。変な女じゃないから。これでもけっこう真面目で固い女なんですよ」
 店主はそう言うと諦めたように笑った。

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