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始まり(3) [小説<物体>]

                            始まり(3)

 工藤健二という老人はさらりと言ったが、きっと俺と同じように不可思議な体験をしたのだろう。それにこの家ではお互いが違いを受け入れて暮らしているようだ。マー君には何も話していないが、話さなくても分かっているのかも知れない。二人はまるで姉弟のように部屋の隅でふざけあっている。
 老人は二人を目を細めるように見ると話し始めた。

「早苗が小学校に入学してから同じような生徒がいることに気がつきましてね、それで色々調べてみると、市内の小学生で三十人余り、中学生は二十人くらい。高校生や社会人は分かりませんがかなりの人数がいる筈です。それで連絡を取り合いましてね、父母会のようなものを立ち上げて定期的に情報交換をしていたんです。不思議なことが色々ありましてね、いずれこのような事態になるのではないかと思って一応準備だけは始めたのですが……。これほど早くやって来るとは思わなくて戸惑っているのが正直なところです。
 このままでは間違いなく人間は終わりです。エネルギーとか温暖化とか色々問題があっても誰かが解決してくれるだろうと思っていましたが、この事だけは自分たち意外に誰もいないんです。この子たちの親である私たちにしか出来ないんです。だから、是非私と一緒に行動を共にしていただきたいのです。
 老人は穏やかな口調だが、目の奥の光は厳しく一刻の猶予も無いように感じる。
「……状況はわかりました。それで、一体何をすればいいのですか?」
 俺が訊くと、少しややこしい話になりますが、と前置きして話し始めた。

「まず早苗やマー君の事ですが、二人とも人間であって人間でない、非常に理解しにくい存在なのです。彼らのような存在がなぜ私たちの世界にやって来るようになったのか。それが最大の問題で、それを知ることが解決の糸口を見つけてくれるものと思っています。誰がそれを決定しどこからやってくるのか、この疑問を私は早苗が来てから十年間追い続けてきました。しかし決定的な証拠と呼べるものはなく、全て仮説の域を出ませんが私なりの結論には達することが出来ました。
 まず誰が決定したか。これは個人というレベルではなく、総意とでも言いましょうか、遺伝子に組み込まれているプログラムが発動したと考えました。遺伝子は人間に近似の樹木ではないかと思います。つまり樹木の総意が遺伝子プログラムを発動させたと思うのです」
 健二老人は自分の言葉を確かめるようにしながら、しかし力強く話した。
「樹木の総意ということは、樹木に意志があると言うことですか?」
 俺が訊くと、
「意志と言うほど明確なものはありませんが、しかしそれ以上に的確で迷いのないものです。人間の身体のアレルギー反応のようなもので、ある数値が一定以上になりオーバーフローするとアレルギー反応が出現するようなものでしょう。樹木の遺伝子、或いは細胞と言っていいかも知れませんが、人間の行動が樹木や自然の維持を危うくすると、その危機感を樹木は敏感に感じ取るのだと思います。樹木というものは、ただ立っているだけではなくて、地中に張り巡らせた根を通じてかなりの情報交換をしているのです。特に地中の栄養素に関する情報はかなり伝えあってるようで、これは研究者の間では常識となっています。その樹木が環境の危機を感じ取ったとしても不思議ではないのです。今回の事は環境の変化だけではなくて、人間の精神的な部分も含めて危機と受け止めたのかも知れません。その危機感が許容値を超えオーバーフローして樹木の遺伝子プログラムを発動させたのではないかと思うのです。だから、今の状況は樹木の遺伝子プログラムが起こした出来事なのです」

 

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