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第2章7 [メロディー・ガルドーに誘われて]

「そうね、子どもが一人いるけど施設で暮らしているの。重度の障害があってね、自宅では介護できないの。二十歳の女の子で千晶って名前よ。生まれてからずっと病院だったわ。一歳になった頃に退院したけど、ほとんど一日中介護が必要だったし、一日に何度も痰の吸引が必要だったの。六歳のときに母親が亡くなってからはずっと施設暮らし。だってカズが一人で育てることはできなかったの。だから跡継ぎはいないわね。でもね、カズはそんなことはこれっぽっちも気にしていないみたいね。自分の家系が絶えることは平気だけど、チーちゃんのことが心配で先に死ねないって言ってるわ。自分の家で一緒に暮らすのは難しいけど、ほとんど毎週面会に行って普通の親子よりも仲良しだわ」
「お母さん、お喋りはそのくらいにしたら? そんな話をされたって困るわ。祐介さん、そうよね」
「そんなことないですよ、自分の好きなことを仕事にできて羨ましいとばかり思っていたのですが……」
「お気楽なオヤジに見えたのは仕方がないわね、私は今だってそう思ってるわ。それがあの人の不思議なところだし魅力ね」
 みち代はそう言って笑った。
「祐介さんに言わないでカズに言えばいいのにね」
 紗羅が言うと、
「絶対言わないわ。そんなこと言うとね、カズは調子に乗るからね」
「本当は言いたいのよ」
 紗羅は横目で祐介を見ながら言った。
「紗羅はね、いつもそうやって私をからかうのよ。でも今日はそんなことはどうでもいいの。私はUFOのことが聞きたいから来たのよ。祐介さん、いいでしょう?」
 みち代はコーヒーカップをテーブルに置きながら言った。
「いいですよ、でも何も面白くないですよ」
 祐介はそう前置きをすると、先ほど思い出したことから、裏山でのこと、友達の慎太郎のことを話した。
 みち代はUFOのことを詳しく知りたがったが、祐介は下から見上げていただけなので、外観以上のことは何もわからないし、窓から宇宙人が覗いていたなんてこともない。みち代はそれ以上の話しはないとわかると、慎太郎のことを訊いた。だけど何一つ答えられない。それどころか、慎太郎という友達が本当にいたのかどうかも疑わしい。もしその友達が実在しなかったら、祐介の夢か幻想と言うことになる。
「どうして思い出せないんだろう、一緒に頂上にいたことは鮮明に思い出したのに。それ以外の慎太郎君のことは何もわからないなんて。これじゃUFOを見たことも疑わしくなるよ。でもなぁ、あれは絶対本物のUFOだった」
 祐介は天井を見上げながら言った。見上げればそこに、あのとき見たUFOを思い浮かべることができる。なのに慎太郎君のことが思い出せない。
「帰省して確かめるしかないわね。私はいつでもいいわよ」
 紗羅は一緒に出かける気になっている。
「帰省って、京都だよ、丹波篠山。なかなか大変だよ」
 祐介が心配そうに言うと、
「大丈夫よ、カズの車で行けばいいわ。一般道ならガソリン代だけでオーケーよ。割り勘でいいよね」
「いいけど、まだ知り合って二日目だよ。俺から言うのも変だけど、悪い男かも知れないし、もしかしたら犯罪者かも知れないよ」
「じゃぁ、決まりね。いつにする?」
 紗羅のペースで話しが進み、みち代は微笑みながら聞いている。普通の母親なら止める場面なのに、そんな気配はなく、好きなようにしなさいと言っているようだ。
「まぁ、いつでもいいよ。暇だからね」
「それじゃ、明日は寝るから、明後日がいいわ。ビザールの前に十二時よ」
 紗羅はそう言うと、祐介の返事も聞かずにキッチンへ消えた。祐介は冷静さを装うだけで精一杯だ。昨日の夜から紗羅という女に翻弄されっぱなしで、とうとう京都までドライブ旅行をすることになった。勿論、紗羅はタイプだし断る理由は何もない。むしろ棚からぼた餅状態なのだが、それにしても展開が急すぎる。理性とかの判断力はほとんど機能不全になっている。そして紗羅のいいなりに事が運ぶのだ。とにかく祐介にとってこんな女は初めてなのだ。どう対処するのが正解なのかわからない。
「ごめんね、いつもこんな調子なの。紗羅をよろしくね」
 みち代は軽く頭を下げると微笑んだ。親の顔が見てみたいと言うがその親が目の前にいて頭を下げた。この親にしてこの子ありか……祐介はそう思いながら、黙って頭を下げた。

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