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第6章 その(22) [小説 < ツリー >]

                                第6章 その(22)

 家の前に着くと、丁度交番からも警官が来たところだった。警察が来たことを伝えると、玄関にここの家主らしい男が顔をだした。
「この人の通報で、この家に無理矢理連れてこられた女子大生がいるとのことですが、お話しを訊かせていただけますか」
 警官はそう言うと手帳を取り出しメモを取る用意をし、訊かれた男は今日の集会がいつもの定例会であること、集まった人数など細かく話し、奥から加代子を呼び出した。
「あなたが菊池加代子さんですか?」
 警官に訊かれると、
「はい、私です」
 と、落ち着いて答えた。
「あなたが誘拐されたと通報があったのですが、それは事実ですか?」
 警官は加代子を観察しながら丁寧に訊いた。
「いいえ、そんなことはありません、自分の意志で来ました」
 加代子は俺とは視線を合わせず、落ち着いた口調で答えた。
「田川さん、お話しが違うようですが、どういう訳ですか?」
 どうやら警官は俺たちを疑っているように感じる。
「加代子、しっかりしろ、一緒に帰るんだ!」
 そう言いながら加代子に手を伸ばしかけると警官に制止された。
「この人は同じ大学生で見覚えがあります。私のことをつけ回しているんです」
 加代子が冷静に言うと、
「それはストーカー行為になりますよ」
 警官は俺に注意するように言った。
「嘘を言うな、加代子は騙されてるんだ」
「田川さん、これ以上はあなたに警察に来ていただくことになりますよ」
 警官は手帳を閉じると、俺に大人しく帰るよう促した。
 
 玄関の戸が閉められ、警官に見送られるようにその場を去った。悔しいがどうにも出来ない。
 仕方なく東京に向けて車を走らせていると、携帯に警察から連絡が入った。ついさっき一緒にあの家に行った警官からだった。
「田川さん、先ほどは力になれなくて申し訳ありません。あの場ではああするより方法がなかったんです。実はあの宗教団体は以前から甲府署でマークしているんですよ。あなたのような訴えが他にもありましてね、あなたと同じ大学の学生ですよ、行方不明で捜索願いが出されているのはご存知でしょう。アパートからあの団体の電話番号が発見されて、ご両親が呼び戻しに行かれたんですがね、今日と同じで自分の意志と言われたらどうにも出来ないんですよ。そう言うわけで監視はしていますから、何かあったらご連絡下さい」
 電話は一方的に話すとプツリと切れた。
「何かあってからじゃ遅いんだよ!」
 片岡さんが吐き捨てるように言った。苛立ちが伝わってくるが、俺だって同じ気持ちだ。

とにかく疲れた。片岡さんも美緒もぐったりしている。どうにも出来ない無力感が生気を奪い取っていく。源三郎は俺の代わりに誰かの身体を奪い取り、加代子を儀式の生け贄にするのだろうか。いずれにしても加代子は源三郎に操られてどうにもならない。こんな馬鹿な話があっていいものだろうか。誰に話したって到底信用できるような話ではない。だけど自分の身に起きた事実なのだ。

 きっと片岡さんも美緒も同じ気持ちなのだろう。二人とも無言のまま暗闇を切り裂くように進むヘッドライトの先を見つめている。


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