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第1章20 [宇宙人になっちまった]

「外を見て!」
 甲高い声が室内に響いた。窓際の女の子が窓の外を指さし、誰もが首を伸ばしてその先を見た。
「あ! あれってUFO?」
 誰かの声がすると、次々に悲鳴やら叫び声が重なった。浜辺や夢実、敬一など数人は窓に顔を押しつけるようにして円盤を見ている。何人かは友達の背中越しに円盤を見つめ、何人かは部屋の隅でしゃがみ込んでいる。
 高台にある病院の窓からは眼下に市街地が広がり、遠景に低い山々が見えるが今日は雲が多く見えない。円盤はその景色の真ん中に銀色の肌を見せている。少し見上げた直線距離は二百メートルくらいだろうか、突起物は何もなく緩やかな曲線が皆の視線を惹き付けている。そのまま虚空に張り付いたように動かず何の音もしない。地上からも二百メートルくらいはあるだろうか、円盤の下には幹線道路がまっすぐ横に伸び、救急車が鳴らすサイレンの音がここまで届いている。高校生たちと円盤が見えない糸で繋がれ、少しでも動けば切れてしまうような危うい空気が張り詰めている。
「何! 何なの?」
 夢実が頭に手を乗せながら叫んだ。髪の毛が逆立っている。静電気に吸い寄せられているようだ。夢実だけでなく、室内の全員が同じように髪の毛を逆立てている。後藤ドクターは窓に吸い付くように円盤を見ている。
「熱い!」
 部屋の隅で女の子が叫び、頭を押さえながらうずくまった。窓際にいた数人も同じように頭を押さえて横になったりしゃがみ込んだ。後藤ドクターは慌てて倒れた者を抱き起こし声をかけている。絵里子は夢実を抱きかかえ、陽介も敬一を支えている。
「こっちへ来る!」
 誰かが叫んだ。円盤がゆっくり動き出した。恐怖で身動き出来ず彫刻のように固まっている。次第に大きく迫る円盤で窓を覆われてしまった。銀色の表面はどこにも繋ぎ目がなく窓や出入り口もない。窓に衝突する寸前でピタリと動きを止め、まるで室内を睨んでいるようだ。誰かがゆっくり立ち上がった。夢実だ。横にいる絵里子が夢実の服を掴んで引っ張っている。夢実は円盤に向かって右手を挙げ左右に小さく動かした。誰もが息を詰めて夢実を見ている。

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