第2章4 [メロディー・ガルドーに誘われて]
草刈り機を動かす手が止まった。今まで思い出したことのない映像がありありと蘇った。慎太郎の声で顔を上に向けるとそこにいたのは間違いなくUFOだった。
「どうしたの?」
紗羅が大きな声で言った。
「いや、何でもない」
祐介は何事もなかったかのように草刈り機を操作したが、心臓は騙せない。あの時と同じように大きな鼓動でめまいがした。辛うじて足を踏ん張り耐えるとその場に座り込みエンジンを止めた。
「終わりにする?」
紗羅は腰を伸ばしながら言った。
「そうだね、終わりにしよう」
祐介は小さな声で返事をすると、草刈り機のベルトを肩から外した。汗が噴き出すように出てくる。
「気持ちいいね。残りはこの次よろしく」
紗羅はそう言いながら隣に座った。
「俺の体力じゃ一時間が限界だよ」
祐介は刈り残した雑草を眺めた。小さなピンクや紫色の花を咲かせている雑草も混じっている。何も気にとめず片端からなぎ倒すようにして作業を進めたが、終わってみると、自分が随分乱暴なことをしたような気がした。雑草には小さな虫もいて、驚いて逃げ出す姿を何度も見た。
「急に考え事してたね」
紗羅が真顔で訊いた。
「変だった?」
「時間が止まったみたいだった。抜け殻みたいに見えたよ。ちょっと心配になって声を掛けたの。何かあったの?」
「うん、突然だった……思い出したんだ。UFOを見たことを。記憶のカケラも残っていなかったのに……思い出した」
祐介は刈り終えた雑草を見ながら考え込んだ。
「UFOって、あの未確認飛行物体のこと?」
「そう、俺はあの時、UFOを見た。間違いないよ。でも誰にも話していない。秘密にしたんじゃなくて、記憶から消えてたと思う。でも間違いないよ。俺は裏山で慎太郎君と一緒にUFOを見たんだ」
祐介はそう言って空を見上げた。
「どんなだったの?」
紗羅は祐介の顔を覗き込むようにして訊いた。
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