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第2章5 [メロディー・ガルドーに誘われて]

「すぐ頭の上、十メートル位の高さだと思う。浮かんでた。絵に描いたような円盤がそこにいたんだ。オレンジ色の光もなく、無音で目立たない色、グレーだったと思う。大きさは十数メートル程度かな。そんな巨大じゃなかった。最初に見つけたのは慎太郎君で、呼んでるって叫んだからわかったんだ。二人とも黙って見上げていた」
 祐介は空を見ている。
「怖いとか、逃げようとか思わなかったの?」
 紗羅も空を見上げながら訊いた。UFOがそこにいそうな気がしたからだ。
「それが不思議なんだ。草刈りしているときにね、最初に思い出したのはその時の感情だったと思う。だから思わず目を閉じてしまったんだ。その感情に引きずられるように映像が出てきたんだ。あの時の気持ちはなんだろう、懐かしくて、安心感に満たされたような気持ちだった。だから怖いとか逃げようなんてこれっぽっちもなかったよ」
「それでどうなったの?」
 紗羅が訊いた。
「黙って見ていた。あっという間だったかも知れないけど、よくわからない。そしてあっけなく見えなくなった」
「それだけ?」
「あぁ、それだけ。ポカンと浮かんだ円盤が一枚の絵みたいだ」
「UFOが見えなくなってからどうしたの? だって円盤見たんだよ、慎太郎君と二人で盛り上がったでしょう?」
「覚えているのは、黙って山道を下りたことだけで、バイバイも言わずにそのまま別れたような気がする。毎年帰省しているのに、慎太郎君とはそれ以来顔を見ていない。UFOと一緒に慎太郎君も記憶から消えてしまったみたいだ。そんな名前の友達がいたことを今日思い出したんだ」
 祐介は西に傾き始めた太陽を見ている。二十年前にも慎太郎と一緒に裏山から沈みかけた太陽を見たはずだ。
「不思議な話ね。見たのが祐介さんだけなら、子どもの頃に見た夢だった可能性もあると思うけどね、でも二人で見たのなら、音信不通の慎太郎君に連絡すれば何かわかるんじゃないかしら」
「そうだね、久し振りに帰省してみるかな。その裏山にも登ってみたいね」
「いい考えね、私もその話もっと詳しく知りたいわ。円盤が二人の前に現れたのは何か理由があるはずよ、絶対そうだわ」
 紗羅は大きく目を開いて言った。
「何で急に思い出したんだろう。今日は不思議な日で、おまけに疲れたよ。シャワーを浴びたいね」
「シャワーは私が一番よ、草刈り機は物置ね、よろしく!」
 紗羅は素早く立ち上がると、後ろも見ずに家の中に消えた。

タグ:UFO
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