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第1章11 [宇宙人になっちまった]

「じゃぁ、敬一みたいなツノ持ってる奴がいるってことか」
「しかも、この東京らしい。だからどこかですれ違ってる可能性あるね。数人の症例は高校生ばかりらしい」
「へぇ~、ユニコーン軍団作れるじゃん。ネットでいけるな」
 陽介が目を輝かせ始めた。
「だめ、それは絶対だめだから。これ以上家の周りに変な奴来られたらマジ生活できないから、絶対ダメ!」
 敬一は陽介を睨みながら強い口調で言った。
「わかったよ、わかった。やらない」
 陽介は残念そうに言った。おもちゃを取り上げられた子どものようだ。
「だけどさ」
 陽介は思い出したように話し始めた。
「コブのことは敬一より俺の方が絶対よくわかってるからな。触ってる回数だって俺の方が多いと思うし、教室で敬一の後ろの席に座ってるのだって意味があるんだよ。俺は毎日後ろからコブを丁寧に観察して記録までしてるし」
「記録?」
 敬一が陽介を覗き込むようにして訊くと、鞄からノートを取り出して見せた。陽介はその分厚いノート一冊ですべての教科を済ませている。ノートを開くと上下の余白部分に丁寧に写生されたコブの絵がある。絵は小さいが日付と短いコメントも書かれている。授業で使われた部分はスカスカで、汚い字が少し並んでいるだけだ。余白部分の丁寧さと充実ぶりが陽介の学習成績の悪さを表している。
「何、これ!」
 敬一は驚いてページを次々にめくっていくが、どのページの余白もびっしりコブの写生が書かれている。
「どんだけ暇なんだよ」
 敬一がバス車内に声を響かせた。
「授業中コブをぼんやり見てたらさぁ、小さなほくろをいっぱい見つけたんだ。北斗七星だったら面白いだろうと思って写したのが最初かな。それが人の顔に見えたり、太陽黒点に見えたりして、毎日模様が変化するんだよ。最近はほくろが消えてつるりときれいになったけど、なんかメンテしてる?」
 陽介はそう言ってコブを見た。
「何もしてねえし、いつもと大して違わないと思うけど」
 敬一は不機嫌そうに言った。
「だよね。でも綺麗になったのは本当だよ。面白半分に太陽黒点を検索かけたら驚いたよ。太陽もつるつる、綺麗なもんだよ。黒点が消えると氷河期なんだって。まぁ、そういう周期らしいけどね」
「着いたぞ」
 敬一がそう言いながら席を立つと慌てて陽介も席を立った。
「今日さ、放課後に天文部行こうよ」
 敬一はバスから降りると陽介を誘った。
「何、急にどうした?」
 陽介は困ったように訊いた。
「いや、その黒点とか、氷河期とか面白そうじゃん。まだ部活をどこにするか決めてないしさ、体育会系よりも自由っぽいし、見学してもいいんじゃない」
 敬一は珍しく積極的に誘った。陽介も見学ならいいかと一緒に行くことにした。

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第1章12 [宇宙人になっちまった]

 放課後になり、二人で天文部を訪ねたが、部室は校舎の端にありしかも最上階の4階にある。屋上に小さな天文ドームを持ち、毎年夏になると近隣の小学生対象に星を見る会を開くなど、活動はなかなか積極的らしい。特別教室や教材保管室などの前を通り、その一番奥に天文部の部室があった。廊下から中をのぞくと数人の男女が何か熱心に話しているようだ。敬一は思いきってドアを開け、見学したいことを伝えると快く迎えてくれた。と言うよりも、盛大に勧誘されたという方が正確だろう。
 入部するかは保留にさせてもらったが、黒点や氷河期について丁寧に教えてくれた。専門用語が多く、敬一には理解できないことが多かったが、概ね陽介から聞かされた話と違いはなかった。黒点の減少は太陽活動が弱くなることで、小氷河期になる可能性や人間の活動にも関係してくるらしい。一説によれば、太陽活動が活発になれば、人間も活発になり戦争が起きたり、また経済活動が活発になったりするらしい。まぁ、敬一には関係のない話のように思われた。
 ただ部長が最後に言った、宇宙線の増大と言うことは少し気になった。これも黒点が減れば増えるものらしい。こっちも一説だが、宇宙線が増えれば、心筋梗塞や心臓病が増えたり、地震や火山活動も活発になるらしい。敬一はなんとなくだが、自分のコブが宇宙線と関係ありそうな気がした。
 部室の隅で今まで黙って聞いていた生徒が最後に話を聞かせてくれた。三年生で副部長らしい。天文部の中では異色で、天文よりもむしろ物理系に詳しいらしい。だから話は黒点よりもダーク・マターとかダークエネルギーの話を熱心に語った。何でも、目の前の空間には正体のわからない何かがあり、得体の知れないエネルギーに満ちていると言うことらしかった。
 天文部のプレゼンはここまでで、人気の部活らしく見学者対応はとてもスムーズだった。その後は日常の活動になるので参加は自由だと言われた。部長は最後まで見学したらと誘ってくれたが、キラキラした雰囲気に気後れした敬一が勝手に断ってしまった。
「部長の名前、池田綾音だっけ、俺、タイプかも」
 陽介が階段を降りながら言った。
「なんだ、知らなかったのか。けっこう隠れファン多いらしいよ」
 敬一はよく知っているかのように言った。
「天文部って、どっちかと言えばさ、少し暗いようなイメージなんだけど、綾音ちゃんは全然違うじゃん、まるでアイドルだよ。天文部入っちゃおうかな」
 陽介は少し早口になって言った。
「マジで?」
「ああ、真面目な話ちょっと興味あるなぁ」
「何に興味あるんだよ、綾音ちゃんか?」
 敬一はそう言いながら陽介の尻に蹴りを入れると、「ちげーよ、宇宙だよ」
 陽介はお尻を押さえながら返事をした。

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第1章13 [宇宙人になっちまった]

 コンビニで浜辺青磁と出逢ってから二週間が過ぎ、夢実は浜辺の主治医である後藤ドクターの診察を受けた。超音波など幾つかの検査をした結果は予想通り浜辺と同じ診断だった。同席していた母親は、単純な良性腫瘍ではなく未知の病気であると告げられたことに動揺している。コブが気になるようなら手術で簡単に取れると思っていたからだ。
「先生、コブを取ることが出来ないとどうなりますか?」
 母親は単調直入に訊いた。
「コブ自体は危ないものではありません。頭頂骨を変形させながら細胞組織を形成しつつあります。単純な腫瘍ならその部分だけを切除するのですが、夢実さんの場合は既存の脳細胞と繋がりながら増えているので切除が難しいのです。コブはこのままもう少し大きくなると思われますが、髪の毛で隠せる程度だと思います」
 後藤ドクターはそう言いながらモニターにコブのCT画像を映した。
「大きくなっても危険なことはないのですね」
 母親は念を押すように訊いた。
「ええ、現状で言えば危険なことはありません。細胞分裂が穏やかで周囲の細胞を傷つけることはないようです。なんと言いましょうか、赤ちゃんがお腹の中で身体を完成させていくプロセスと似ているのです。病気と言うよりも何かしらの成長と考えることも出来ます。勿論今まで確認された症例数が僅かですので注意深く診察を続けていく必要はあります」
 後藤ドクターはモニターを見ながら穏やかに話した。
「少し安心しました。でもちょっと難しすぎて、その、結局このコブは何なのですか?」
 母親は申し訳なさそうに訊いた。
「夢実さんと同じ症例で三年ほど継続して診ている患者さんがいるのですが、その方のコブは右脳でも左脳でもない頭頂部に位置することから第三の脳、サードブレインと呼んでいます。これは夢実さんとほぼ同じです。しかし、実際にどのような働きをしているかは未知数で、少数の専門家と研究を開始したところなのです。私の把握しているところでは東京近辺で十五人まで確認しています。今後の治療に役立てる為と、研究協力していただく意味から、患者の会を組織して定期的に集まり情報交換する機会を設けています。そのような状況なので、実際に脳のような働きをするかどうかはまだよく分かっていないのが現状なのです」
 後藤ドクターは申し訳なさそうに頭を少し下げ、母親も同じように頭を下げた。
「ところで先ほど話しました患者の会なのですが、夢実さんも参加されたらいかがでしょうか、数人なのですが全員高校生なので参加しやすいと思います。女性もいますし、何かのお役に立てることもあるかと思います。それに私の研究にも協力していただけるとありがたいのです」
 ドクターは微笑みながら言った。
「ええ、わかりました、よろしくお願いします。患者の会の話は浜辺青磁さんから聞いていました。次の日程も聞いていますので行くようにします」
 夢実は研究にも協力すると約束し、次の集まりには友達と一緒に行くと伝えた。

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第1章14 [宇宙人になっちまった]

 夏の暑さは峠を過ぎたが、遙か南の海上には台風が相次いで発生し、予報では一週間ほどで本州に近づくだろうと伝えている。その影響なのか雲が多く出かけるには都合がいい。
 病院の前で絵里子と待ち合わせ、少し前に到着した絵里子は夢実を見つけると早くこちらに来るように手招きをしている。何かと思いながら駆け足で近づくと胸の前で小さく横を指さし、
「見ちゃだめ」
 と小さく言った。夢実は指さす方向をさりげなく視野の端に入れたが、十メートルほど先に若い男が二人立っているだけだ。
「何、どうしたの?」
 と小さな声で訊いた。
「ユニコーンよ、あのユニコーンがいるの」
 絵里子は大発見でもしたように言った。夢実は視野の端に見えている高校生をもう一度観察すると、一人は確かにアップされていた動画の高校生とよく似ているし、頭頂部を見ると自分と同じだとすぐ分かった。
「そうね、間違いないわ。きっと患者の会に来たのね、声かけてみようよ」
 夢実はそう言うと絵里子の返事も聞かずに歩き出した。日曜なので他に人はいない。若い男は自分に近づく夢実に気づき、驚いたような顔で夢実を見ている。
「もしかして、ユニ会ですか?」
 夢実は頭頂部を手で軽く触りながら言った。
「そうだけど。君も?」
 山谷敬一は夢実と同じように頭頂部を撫でながら返事をした。
「はい、同じユニコーンです。よろしく」
 夢実はぺこりと頭を下げると、
「あの、ネットに出てますよね、ビーム発射してるの見ました」
 と嬉しそうに言った。動画を毎日のように見ていたせいか、顔を見ただけで以前からの友達のような気分になった。
「ビーム発射はこいつが勝手に作った動画なんで……」
 敬一はそう言いながら隣の陽介を紹介した。絵里子もやってきてお互いを紹介し合うと、それぞれのコブ話で盛り上がり、笑い声が静かな病院に響いた。
 会場は病院の裏にある二階建ての研修棟の一室だった。普段は様々な職種の人たちの学習の場として利用されるが、休日は個人的な研究会や外部との連絡会、また、患者の会などの集まりに利用されている。
 室内に入るともうすでに数人がコの字型に並べられたテーブルに座っている。談笑している人やヘッドフォンを頭に乗せて小さく身体を動かしている人など、堅苦しい雰囲気はなく休み時間の教室のようだ。誰もが頭頂部に特徴があり、関係ないのは絵里子と陽介だけのようだ。絵里子は後ろの端に座っている浜辺青磁を見つけるとすぐに声をかけ、浜辺は二人にそばに座るように促した。敬一と晃も二人の近くに座り、それとなく周囲の様子を観察している。
 しばらくすると後藤ドクターがポロシャツにジーンズというラフな服装で入ってきた。
「お待たせ、そろそろ始めようか。さて、今日は新規のメンバーが来ているのでまず最初に紹介しよう」
  後藤はそう言うと、敬一たち四人を正面に招いてそれぞれに自己紹介させた。敬一と夢実はもう少し時間を取ってメンバー全員のことを知りたいと思ったが、ドクターはあっさりと終わり次の話題に進んでいった。
「今日は大事な話があるのでよく聞いて欲しい。君たちのコブのことだ。学会内でサードブレインと呼んでいるのは知っているだろう。ペルーの研究者から先日連絡があってある事実が判明したんだ。結論から言えば、君たちのDNAの特徴とペルーで発掘された三千年前のミイラのDNAの特徴が一致したと言うことだ。これだけなら同じホモサピエンスだから何も驚くことはないんだがね、そのミイラが大問題なんだよ」

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第1章15 [宇宙人になっちまった]

 後藤ドクターはそこまで言うと一息ついた。誰も黙ったまま質問も出来ないでいる。余りにも唐突な話で理解の範疇を超えているのだろう。ドクターは皆の顔を見ながら話を続けた。
「まず、ペルーと君たちがどう繋がるかということから説明しよう。私が学会で発表した頭部腫瘍についての論文と君たちのDNAサンプルを、ペルーで頭部変形ミイラの調査研究をしている山下という日本人研究者に送ったんだ。私の後輩でね、親しい間柄なんだ。君たちも知っていると思うが、ペルーはミイラの宝庫で、その中に頭部が異常に変形したミイラが多く出土しているんだ。その中に君たちそっくりな特徴を持った頭蓋骨があるんだ。しかしその大半は人為的に、つまり乳幼児の段階で頭部を板で挟むようにして長く延ばしていたんだ。その理由については諸説あるが、当時の支配者とか神とかの姿に似せようとしたのではないかと言われてるんだ。大きく膨らんだ頭部のコブは憧れの存在だったんだろうね」
 後藤ドクターはそこまで話すとペットボトルを口に運んだ。
「先生、わたしそのミイラの写真見たことがあります。私のコブは自然に出来たし、そんなに大きくないのでミイラとは関係ないと思うのですが」
 夢実は自信無さそうに小さな声で言った。
「そうだね、人為的に変形させられた頭蓋骨とは関係ないよ。君たちと同じだったのは、パラカスの頭蓋骨と呼ばれる三百体ほどのミイラのことだ。二千十四年に発見されたばかりでまだ不明なことも多くてね、遺伝子は二回調べられてデータも公表されているよ。一回目の結論は地球上の生き物ではない可能性が高いと報告された。二回目はこのミイラの祖先はヨーロッパだろうと報告された。現在はヨーロッパ説が主流だがまだ結論は出ていない。だがDNA以外にもう一つ重要なことがあって、それは脳容積と頭蓋骨の重さなんだ。人為的な変形では容積も重さも変わらないんだ。形が変わっただけでね。でもパラカスの頭蓋骨は容積が二十五%増え、重さは六十%増えているんだ。そして最大の特徴は、頭蓋骨はお椀のように1つのパーツで出来ていることなんだ。通常は前と側頭部が二つ、そして後頭部の四つのパーツなんだ。つまり、ホモサピエンスとは構造から違っていると言うことなんだ。君たちはそのパラカスの頭蓋骨のDNAと多くの一致点があるということだ。私はその分野の専門家ではないから詳しい説明は出来ないけどね。ペルーの友人によると、君たちの存在が最大の謎だと言っていた」

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第1章16 [宇宙人になっちまった]

 そこまで話すと、ドクターは質問を求めた。しかし何を質問していいのか分からないようで誰も言葉を発しない。視線を虚空に向け何かを考えているように見える。
「浜辺君、どう思う?」
 後藤ドクターは一番年長の浜辺に訊いた。
「つまり、僕たちの祖先はヨーロッパか地球外と言うことですか?」
「そうだね、パラカスの頭蓋骨が仮に地球外由来だとすれば君たちも同じということだろう。
 公式発表は何かの圧力があったのか、ヨーロッパ起源のホモサピエンス亜流で、突然変異が原因とされたようだ。だけど石川君は実際に現物を調査した手応えから、パルカスの頭蓋骨は絶対地球人ではないと断言していた」
 ドクターは淡々と説明した。
「僕は普通に母親から生まれて普通に育って、中学生になった頃から頭頂部が膨らんできただけなんですけど、それのどこが宇宙人なのですか?」
 敬一が立ち上がって話すと、他の参加者も頷いている。
「僕もそう思うよ、目の前にいる君たちが宇宙人だとは思えない。どう見たって普通の高校生だよ。だけどサードブレインは日々大きくなっているし、DNAの分析結果を信じるならどうするのが一番いいのか随分迷ったんだよ。後輩の言うことを無視して通常の診察を続けることも考えたよ、むしろその方が無難だと思う。だけどね、サードブレインで起きていることは今まで学んできた医学の常識が覆されるような出来事なんだ。論文でも発表したけど本質を理解できている人は殆どいないと思う。だから僕は僕のやり方で真実を確かめようと思ったんだ。こんな話を公に発表したらマスコミは面白がって飛びつくだろうけど、その日から僕は変人扱いだろうね、。それで考えたのが、患者の会を通じて君たちと一緒に調べようと思ったんだ。君たちの協力無しには出来ないからね。どうだろう、協力してもらえるだろうか」
 後藤ドクターはそこまで話すと深呼吸するように大きく肩を動かした。
「自分の身体のことだし、いくらでも協力します、けど、 その、何というか、つまり、サードブレインが成長してくると僕は宇宙人になるんでしょうか?」
 背の低い大橋という男子が訊いた。

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第1章17 [宇宙人になっちまった]

「一回目のDNA分析を信じるなら君は今の状態でも地球外の何かと共通するものがあって宇宙人とも言えるだろう。しかし、百%というわけではない。君たちのDNAのほとんどは私たちと同じで、僅かのDNAが地球外の未知のDNAということだ。その未知のDNAがサードブレインを育てているとするなら、成長とともに何かが見えてくるんじゃないかな。しかしね、宇宙人と言っても、怪物になるわけじゃないからね、パルカスの頭蓋骨だって頭以外は通常の人間と同じだからね。君たちのコブはかなり小さいから容姿は今と殆ど変わらないと思う。だからそんなに心配する必要は無いよ」
 ドクターが話し終えると、待っていたように浜辺が話し始めた。
「僕たちの身体に地球外の何者かの血が混じっているというのは、正直なところ半信半疑です。だけど僕は真実を確かめたいので先生に協力します。それと一つ質問があります。地球外のDNAというのは、どうやって僕の身体にやってきたのかそれが知りたいです。父親か母親のどちらかですか?」
 浜辺は父のいない家庭で育てられ父親の記憶が無かった。
「遺伝学上はそうなるだろう。君のお母さんは主治医として昔から知っているが、特に変わったところもないし、可能性から言えば父親由来かも知れない。
 実はまだ話していなかったが、石川君からもう一つ知らされていることがあって、それは君たちの父親のことなんだ。つまり、ここにいるみんなは全員血が繋がっているんだ。父親が同じだということだ」
 ドクターは衝撃的な話を唐突に、しかも夕食の献立でも知らせるように話した。それはドクター特有の、感情を出さないようにする配慮なのかも知れないが、その瞬間室内から音が消えた。誰もがドクターの言葉をもう一度頭の中で繰り返し、そしてゆっくり顔を動かしお互いの表情を確かめるように見合った。
「え~っと、その~、誰か父親のことを話してくれますか?」
 浜辺が皆の顔をゆっくり見ながら訊いた。しかし誰もお互いの顔を見るだけで話そうとしない。
「え、誰も、いないの、父親のこと知らないってこと?」
 浜辺は焦るように訊いたが、先ほどと同じで誰も話そうとする人はいない。浜辺は絶句したままゆっくり腰を下ろした。ようやくどこからともなくざわざわと話し声が聞こえ始めた。

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第1章18 [宇宙人になっちまった]

「先生、父親が同じって事は、私の父は三年間の間に十六人の子どもを作り、私の顔を見ることもなく姿を消したってことなの? 私の父は婚約中に事故で亡くなったって聞かされたわ。だからシングルマザーだって。でも写真は残ってる」
 夢実が声を震わせるようにして言うと、誰もが似たような境遇だと分かってきた。両親と暮らしている人もいるが、それは母親が再婚したからで、実父は同じような状況だった。
「やはり君たちの父親がDNAの持ち主かも知れない。父親のことをできる限り調べてみよう。わかったことをここの全員で共有しようと思うがどうだろう。父親の写真を持っている人はアップしてもらいたい。好きな食べ物、趣味、出身地何でもいいから知り得たことは全てアップして共有しよう。もしかしたらどこかで生きているかも知れない。皆で協力して消息を確かめよう」
 後藤ドクターが話し終えると、近くにいる人同士で雑談が始まった。浜辺も敬一も夢実も血が繋がっていると聞かされたせいかもしれないが、妙な親近感を感じ始めた。生活境遇が似ているのも身近に感じるのだろう。
「先生、そういえば行方不明の三人はどうなったんですか?」
 雑談をしていた浜辺が急に思い出したように言った。
「まだ何の手がかりもつかめないようだね。警察からは病気のことを色々訊かれたよ。自殺の可能性を疑っているようだったが、僕はそんなことはあり得ないと思う。三年生だからサードブレインの成長はかなり進んでいて、脳研究にも協力していたんだ。成績も優秀で温厚な性格。急に姿を消すなんて考えられない。僕よりも君たちの方が何か聞いたりしているんじゃないかな」
 皆はドクターの話にざわついた。
「あの、僕はあの三人はそのうち何か起こすような気がしていました。多分みんなも同じように感じてたんじゃないかなぁ。先生の前では大人しくしていたかも知れないけど、僕らの前では横柄で威圧的でした。患者の会が出来た頃は仲間意識もあって仲も良かったんです。でも最近はいつも三人で固まっていて僕らを避けているような気がしていました。
 先月の例会のときにそれが決定的になる出来事があったんです。休みの日に全員で遊びに行く事になって三人にも声をかけたんです。そしたら、俺らはお前らとは違うんだ。下等な奴らとはもう付き合えないって言われたんです。いきなりです。それどころか、お前ら下等な人種は滅びる運命だと指をさして言われたんです。同じ患者仲間なのにですよ。あのときの顔と声は今思い出しても身震いするほどです。何かに取り憑かれたように表情が変わり、別人のようでした。あれ以来顔を見ていません。だから行方不明になったと聞いたとき、心配するよりもあの恐怖感を思い出しました。何かとんでもないことが起こりそうで心配です」

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第1章19 [宇宙人になっちまった]

 浜辺の話にドクターは眉間に皺を寄せ目を閉じている。何度か首を左右に動かした。突き刺すような緊張感が室内に漂い誰も言葉を発しない。
「優秀な彼らがそんなことを言うなんて、研究には協力的でサードブレインは順調だった。それなのに、何が起きたんだ」
 後藤ドクターは絞り出すように言った。
「先生、僕らはどうすればいいんですか? 何か出来ることはありますか?」
 浜辺が訊いた。ドクターはしばらく黙って俯いていたが、口を真一文字に結び顔を上げて話し始めた。
「先ほど話した通り、一つは君たちの父親探しだ。肉親や親戚、近所の知り合いでも何でもいいから情報を集めて欲しい。二つ目は感覚を研ぎ澄まして、常にコブに意識を向けておいてもらいたい。まだ早いかも知れないがいずれ分かることだから話しておく。君たちのコブ、つまりサードブレインだ。行方不明の三年生と比べるとまだ未熟だが次第に能力の高まりを自覚できるようになるだろう。自分が無敵に思えるかも知れないが惑わされてはいけない。君たちの先輩はおそらくサードブレインに支配されてしまったのだろう。君たちも三人のように他の人間が下等な生き物に見えてくるかも知れないが、それはサードブレインの暴走だから従ってはだめだ。この先サードブレインがどんな力を獲得して何をする気なのかは未知数なんだ。それを知ることが出来るのは君たち以外にいない。繰り返すが、コブに意識を向け感覚を研ぎ澄まして欲しい。少しでも変わったことがあったらすぐに知らせてくれ」
 ドクターは話し終えると静かに腰を下ろしたが、幾分顔色が青ざめて見える。
「あの、私も先輩みたいになるんですか?」
 夢実が小さな声で尋ねた。
「そんなことにはならない、大丈夫だよ」
 ドクターは即座に応えたが、皆には気休めのように思えた。誰もサードブレインのことが分からないからだ。暴走に従うなと言われてもどうしていいか分からないし、そもそも自分の脳に従わないなんて矛盾だらけだ。後藤ドクターはざわつく不安感を払拭する言葉を見つけられないまま腰を下ろした。一番動揺しているのはドクターかも知れない。今日まで三人の異常性に気づくことが出来なかった。自分の管理下にあると思っていたのは幻想で、まんまと騙されていたのだ。

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第1章20 [宇宙人になっちまった]

「外を見て!」
 甲高い声が室内に響いた。窓際の女の子が窓の外を指さし、誰もが首を伸ばしてその先を見た。
「あ! あれってUFO?」
 誰かの声がすると、次々に悲鳴やら叫び声が重なった。浜辺や夢実、敬一など数人は窓に顔を押しつけるようにして円盤を見ている。何人かは友達の背中越しに円盤を見つめ、何人かは部屋の隅でしゃがみ込んでいる。
 高台にある病院の窓からは眼下に市街地が広がり、遠景に低い山々が見えるが今日は雲が多く見えない。円盤はその景色の真ん中に銀色の肌を見せている。少し見上げた直線距離は二百メートルくらいだろうか、突起物は何もなく緩やかな曲線が皆の視線を惹き付けている。そのまま虚空に張り付いたように動かず何の音もしない。地上からも二百メートルくらいはあるだろうか、円盤の下には幹線道路がまっすぐ横に伸び、救急車が鳴らすサイレンの音がここまで届いている。高校生たちと円盤が見えない糸で繋がれ、少しでも動けば切れてしまうような危うい空気が張り詰めている。
「何! 何なの?」
 夢実が頭に手を乗せながら叫んだ。髪の毛が逆立っている。静電気に吸い寄せられているようだ。夢実だけでなく、室内の全員が同じように髪の毛を逆立てている。後藤ドクターは窓に吸い付くように円盤を見ている。
「熱い!」
 部屋の隅で女の子が叫び、頭を押さえながらうずくまった。窓際にいた数人も同じように頭を押さえて横になったりしゃがみ込んだ。後藤ドクターは慌てて倒れた者を抱き起こし声をかけている。絵里子は夢実を抱きかかえ、陽介も敬一を支えている。
「こっちへ来る!」
 誰かが叫んだ。円盤がゆっくり動き出した。恐怖で身動き出来ず彫刻のように固まっている。次第に大きく迫る円盤で窓を覆われてしまった。銀色の表面はどこにも繋ぎ目がなく窓や出入り口もない。窓に衝突する寸前でピタリと動きを止め、まるで室内を睨んでいるようだ。誰かがゆっくり立ち上がった。夢実だ。横にいる絵里子が夢実の服を掴んで引っ張っている。夢実は円盤に向かって右手を挙げ左右に小さく動かした。誰もが息を詰めて夢実を見ている。

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