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第4章04 [宇宙人になっちまった]

「みんなビームを!」
 エフが叫び、敬一は気持ちをドクターに集中した。他の仲間も同じようにしている。円盤が窓の高さに来て、陽一がドクターを室内に引きずり降ろした。粉々になったガラスの破片を取り除き、誰かが額の血をタオルで押さえた。その間も敬一たちはビームを送り続けた。これが効果があるのかわからないがエフはもっとビームをと叫んだ。車のエンジンを動かしたときと同じような感覚だ。きっと何かのエネルギーが届いているに違いない。ドクターの胸が上下に大きく動くと、うめき声を出して両手をバタバタ動かし誰かが倒された。
「目が開いたわ!」
 夢実が大きな声で言うと、側にいた陽介が肩を揺らしながらドクターの名を呼んだ。
「うぅ、俺は? どうなった?」
 ドクターは床から皆の顔を見上げながら訊いた。
「先生、死ぬとこだったよ」
 陽介が応えると、ポカンと口を開けて何かを思い出そうとしている。
「そうか、悪魔に……」
 ドクターはそう言って首に手を廻した。ネックレスがない。
「取り憑かれた奴にを引きちぎられた。電車だ」
 ドクターは悔しそうに言った。
「言ってることも何をしてるかもわかってた。でもどうにもならない。頭の中でどれほど叫んでも身体は言うことを聞いてくれなくて窓に向かって走り出したんだ。円盤が助けてくれなかったら地面に叩きつけられてた。目の前に円盤が現れたことははっきり覚えている。あとは気がつくまで何も覚えていない。俺を乗っ取った悪魔はどうなった?」
 ドクターは額のタオルを手で押さえると顔を歪めた。
「みんなでビームを送り続けたからいなくなったと思う。でも見えなかった。誰か見た人いる?」
 敬一が訊いた。
「はっきりとは見てないけど、先生が頭を下げるときに黒い影が見えた。外の銀杏の枝の影かなと思った」
 他のグループの女子が小さな声で言った。しかし、出るのを見た人はいないようだ。
エフはドクターの様子を注意深く観察していたが、ポケットに手を入れると、
「新しいネックレスだよ」
 とドクターの目の前に差し出した。ドクターはしばらく黙ったまま見つめている。
「早く着けた方がいいよ」
 エフが促すと、俯いたまま身体を小さく震わせ始めた。

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