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第5章10 [宇宙人になっちまった]

「断る!」
 敬一が大きな声で言うと、男は敬一の胸ぐらを掴もうと手を伸ばしてきた。しかし男のゴツゴツした手は空を掴みバランスを崩してしまった。その隙を狙って敬一の手足が鮮やかに動き、男はどうすることできず床に転がり呻いている。敬一の動きを見ていた男たちは動くことができず、三人が廊下を走り出すのを見送ってしまった。我に返ったように慌てて後を追ったがその時はすでに扉は閉められ地上からロックされてしまった。
「綾音を探せ!」
 敬一は走りながら叫ぶと正面の入り口に飛び込んでいった。地下に閉じ込めた男の他にまだ何人かいるはずだ。一階のドアを全て開けたが誰もいない。二階へ駆け上がろうとすると、踊り場で四人の男が拳銃を構えている。
「動くな、撃つぞ!」
 先頭の男が大声を出して威嚇すると、敬一は動きを止めて男を睨んだ。
「綾音はどこだ」
 敬一は冷静な声で訊いた。男の大声より敬一の方が凄みがある。
「そんな女はいない」
 男は敬一の眉間にピタリと照準を合わせて応えた。後ろの夢実は懸命にビームを出しているが効いていないようだ。
「いるはずだ、ここを通る」
 敬一が言い終わる前に男は拳銃を落とされ、一階まで転がり落ちてしまった。他の三人は拳銃を手に持っているが、敬一に睨まれ進路を開けてしまった。人間離れした動きに怖じ気づいたようだ。三人がゆっくり二階に上がるの呆然と見送ると、階下で気を失っている男を助けに行った。
「綾音、池田綾音はどこだ、いたら返事をしろ!」
 敬一は大きな声で叫びながら廊下を進み、儀式を行った暗い部屋のドアを開けた。
「大きな声出さなくてもここにいるわ」
 声は聞こえるが薄暗くてよく見えない。短くなったろうそくの炎が揺らめいている。
「どこにいる」
 敬一が訊くと、祭壇の前で黒い塊が動き、夢実は思わず身体を固くして身構えた。
「よくここまで来たわね。役立たずな男たちより優秀だわ」
 綾音はそう言うと入り口のドアを見た。先ほどの男たちが廊下で敬一と綾音の会話を聞いている。
「助けてやるから俺たちと一緒に来るんだ」
 敬一は綾音の目を覗き込むようにして言った。暗くて見にくいが、儀式のときの怪しい光はなさそうだ。
「助ける? 何から助けてくれるのかしら」
 綾音は敬一たちの真剣さをもてあそぶように訊いた。
「わからないのか、悪魔だ。綾音は悪魔に利用されているだけだ」
 敬一は力を込めて言った。

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