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第5章04 [宇宙人になっちまった]

「ここはヤバい、すぐ出よう」
 敬一がそう言って階段を降りかけると、一階のドアの開く音がする。階段の方に向かってくるようだ。逃げ場はない。敬一は部屋の後ろを指さし中に入ると後から二人が続いた。物陰に隠れたが、ここなら部屋の全体を見ることができる。この部屋は教会の礼拝堂に似ている。子どもの頃友達に誘われて行った近所の小さな教会のようだ。違うのは十字架やキリスト像がないことと、正面に置かれた動物の首だ。息を潜めていると足音が二階にやってきた。階段のところのドアではなく正面のドアを使って入り、すぐに後ろのドアが閉められカチリと鍵のかかる音がした。
「まずい、閉じ込められた」
 敬一が小さな声で言うと、祭壇の方から女の声が聞こえた。
「さぁ、ミサを始めるわ。用意するのよ」
 祭壇の前に立ち、三人の男に命令しているのは確かにあの池田綾音だ。天文部で話してくれた部長だ。天文部で見たときはブレザーの制服に短めのスカートが素敵に思えたが、今は全身を黒いマントで包み、顔だけが見えている。
 真紅の厚手のカーテンが引かれ、室内はろうそくだけの明かりになった。更に数本のろうそくを灯し壁面に置いた。
「いいわ、連れてきて」
 綾音が命令口調で言うと、背の高い男が一礼して部屋を出て行った。その間に残った二人は床に分厚い円形の絨毯を敷きその周囲に数本の燭台を用意した。
「何が始まるの?」
 夢実が小さな声で敬一に訊いたが、敬一は首を横に傾けるだけで何も応えてくれない。その横で陽介は携帯を構えている。
「あの女、何か変よ、よく見て」
 夢実が言った。敬一も陽介も目を凝らして見るが、言ってる意味がよくわからない。動物の首を並べた祭壇に向かって両手を広げたり、何かをブツブツ言っているだけだ。確かに変な行動だがそれ以外に不審なところはない。
「どこが?」
 敬一が訊くと、
「女の身体の輪郭よ、よく見て、変に揺れてるわ」
 そう言われて見れば、確かに揺れてるような気もするが、蝋燭の明かりのせいかもしれないし黒いマントのせいかもしれない。しばらく見ているとその揺らぎが大きくなったような気がした。
「おぉ!」
 陽介が思わず声を立て、慌てて自分で口を塞いだ。三人とも今の声を気づかれなかったか息を潜めたが、どうやら大丈夫そうだ。
「輪郭じゃないわ、見て、悪魔よ、悪魔がいっぱい集まってるのよ、見えるでしょ?」
 夢実が息を殺して言った。敬一も陽介も食い入るように見たが悪魔には見えないし、そもそもどんな姿なのか知らない
「どこに悪魔が?」
「女の周りよ、よく見て、変な黒い影が動いてるでしょ。あの影が悪魔がいっぱい集まってる証拠。なんか始まるのよ」

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