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第5章09 [宇宙人になっちまった]

 夢実はそう言うとドアに近づきノブを回した。
「え、鍵かかってないよ」
 驚いたように言うと、ゆっくりドアを開けて見せた。外には誰もいない。三人はゆっくり部屋の外へ出ると、地上への階段を慎重に上り扉を上に押し上げた。ガチャリと重そうな金属音が響くだけで開けることはできなかった。
「まさかね、出られるわけないよ」
 敬一は自嘲気味に言うと廊下に下りた。地下室にしては長い廊下が続き、思った以上に広いスペースがありそうだ。部屋にいるときは気づかなかったが、廊下に出ると低く唸るような機械音が聞こえる。ドアの向こう側からだ。そっとドアを開けると中が少し見えた。
幾つもの機械が繋がり、それぞれが役割を忠実にこなしている。機械のそばには白い服を着た作業員がいて、脇目も振らずに作業に集中している。三人が入ったことに気づいているはずなのにまるで無関心で見ようともしない。廊下に平行した長い部屋を歩いて端へ向かった。端にいるのは悪魔の儀式を手伝っていたあの三人だ。敬一たちが近づくのをじっと待っているように見える。
「俺たちの仲間になれ、死にたくなかったらな」
 奴らの一人が薄笑いを浮かべながら言った。ネームプレートに岩田と書いてある。
「仲間じゃない、悪魔の手下だろう」
 敬一が睨みながら言った。
「キルケ様の恐ろしさを知らないからな、いい気なもんだ」
 岩田はそう言うと仲間二人と機械の方に向かった。敬一たちは、最後の工程で作業員が何かを箱詰めしているのを見に行った。一錠ずつパウチされた錠剤が段ボールに入れられている。薬のように見えるが、名前も何も印字がなく正体がわからない。これをどうしようというのだろう。悪魔の拠点でビタミン剤を作るはずがない。何かの悪事に使うのだろう。敬一は作業員の目を盗んで一錠ポケットにねじ込んだ。作業員に話しかけても、ゆっくり首を動かしてこちらを見るが、どんよりした目は死人の目だ。意思と感情をなくし、手だけが動いて作業を進めている。操り人形以外の何物でもない。
 廊下から乱暴な足音が響き、ドアがバタンと大きな音を立てて開いた。
「ここにいたか、今日からここがお前たちの職場だ。ブラックじゃないから八時間労働だ。十分寝られるだろう、キルケ様に感謝するんだな」
 筋肉質な男がそう言うと後ろの男にコップと水を用意させた。
「これを飲め、心配するな毒なんかじゃない。気持ちよくなるだけだ。嫌なら痛い目に遭うだけだ」
 男が敬一の前にコップと謎の錠剤を突き出すと、敬一は後ろを振り返り二人に目で合図した。

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