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第5章01 [宇宙人になっちまった]

   第五章
 エフの言うように、乗ったら挨拶をし終わる前に和歌山上空に着いていた。乗り心地は申し分なく心地よいので、これで景色が思う存分味わえたら病みつきになってしまうだろう。大きな窓らしきところから見えている景色は本物だろうかと思うことがある。肉眼で見るよりも鮮やかに感じるし、遠景の徐々に色が薄れていく感じがない。どこまでも鮮やかなのだ。おそらく何らかの補正した映像を見ているのだろう。
 下に見えている光景はエフから聞いたとおりで、深い森の中に円形に拓かれた土地の中央に大きな古い建物が見える。周囲は高い塀と木立に囲まれて、近くまで来てもそこに人の活動する建物があるとは思えないだろう。よく見ると塀に出入り口が一つあり、普通トラックがかろうじて通れるくらいの大きさだ。敷地内には軽トラが三台と、ワゴン車が一台。小さなユンボが敷地の端にある。人の姿は見えないが、建物の窓から中の照明が見える。木々に遮られて昼間でも照明が必要なのだろう。
 余りにも地域から隔絶した様子は、部外者の立ち入りを明確に拒絶しているように見える。とても軽いハイキングで立ち寄るようなところではないし、道に迷ったなんて口実の通用するところでもない。そうなると下に降りてもどうにもできない。忍び込めば間違いなく見つかるだろうし、これはちょっとした要塞だ。見張りがいる様子はないが、よく観察すれば監視カメラや侵入センサーらしきものも見える。見た目以上に警戒は厳重そうだ。
敬一は自分の考えの甘さを悔やんだ。ハイキングの振りをして潜り込むなんて、実際を目の前にすると相当お気楽な計画だと思い知らされる。きっと誰も同じように感じているのだろう。黙り込んだまま誰も口を開かない。誰かの大きなため息が聞こえた。
「エフは宇宙人なんでしょ、いい方法考えてよ」
 絵里子が言った。エフは高度な技術を持った宇宙人だから、困ったことは何でも魔法のように解決してくれると思っているのだろう。敬一も初めてエフを見たときは、見た目は子どもだけど中身はスーパーマンに違いないと思った。自分たちを安心させるために弱い子どもの姿をしていると思ったのだ。でも実際は違っていた。確かに自分たちの知らない技術を持っているし、円盤の性能は考えも及ばないくらい凄いと思う。だけど案外できないことも沢山あるし、自分たちとよく似ているのだ。
「使えるものは電磁波しかないよ。思考力と運動能力を低下させるだけだね。敬一君はビームが出せるし、夢実さんは振動波が使えるからなんとかなるよ。陽介君と絵里子さんはここにいた方がいいね。安全だから」
 エフは建物の様子をチェックしながら言った。
「俺も一緒に行くよ。このスーツとネックレスがあれば大丈夫さ。俺は動画で中の様子を記録するよ。いいだろう?」
 陽介の声がやや高い。こういうときは注意しないといけない。信じられないような失敗をやらかすことがあるからだ。絵里子は行かないないと決めている。予想と目の前の景色が違いすぎたのだろう。エフは円盤から電磁波を操作し、絵里子は監視役になった。
 特に用意するものはないし、身体一つで下りることになる。しかしこれでは見つかったら奴らと乱闘になる。スーツとネックレスと、サードブレインを信じるしかない。

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