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第6章02 [宇宙人になっちまった]

「見学いいですか?」
 敬一はやはり前回と同じように声をかけて中へ入った。綾音の笑顔も部員の反応も全て同じで、まるでタイムスリップしたような気分だ。
「いいわよ、こちらにどうぞ」
 綾音はそう言って二人を部室の奥まで誘い入れた。
「夢実さんは元気……かしら」
 昨日の記憶が蘇り背筋に冷たいものが走った。敬一は部屋に入ったことを後悔して出口を見たが、通路は部員に塞がれている。
「元気だよ、また会いたいって言ってる」
 敬一は綾音の目の奥を覗きながら言った。間違いない。昨日の奴がいる。
「今日はこれから屋上の天体ドームのメンテナンスなの、皆で案内してくれるかしら」
 綾音がそう言うと部員が二人の周りに集まり両腕を捕まれた。案内じゃなく連行だ。
部屋に入ったときは見えなかったが、今は見える。二人の周りに悪魔が集まってくる。ある程度の距離を保っているのはネックレスの効果だろうか。昨日はスーツもネックレスも役に立たなかったが何が違うのだろう。
「ドームは止めとくよ、またこの次見せてもらうよ」
 敬一はそう言いながら捕まれた腕に力を入れた。
「遠慮しなくていいわ、ドームの中は暗くて素敵よ。私の下僕にしてあげるわ」
 キルケだ。瞳の奥からキルケが姿を現した。綾音は仮の姿で本質は間違いなく肉体を持つ悪魔そのものだ。
「今までどれほどの人間を下僕にしたんだ。もう終わりだ。サードブレインを舐めるな」
 敬一は話しながらすこし驚いた。自分の口で話しているが、勝手に口が動いてしまったような気がする。見た目は綾音と敬一だが、実際はキルケとサードブレインの会話のようだ。
「威勢がいいわね、操られて脂汗流していたのは誰だったかしら。今だってできるわよ」
 綾音の瞳が潤み始めた。
「陽介、帰ろう。キルケの瞳を見るな!」
 敬一は捕まれた腕を振り払った。
「残念ね、敬一を下僕にしたかったわ。気が変わったらいつでもいいわよ。あなたの望むことすべてを叶えてあげる。それからいいこと教えてあげるね、もうすぐ始まるの、私が待ち望んだこと。この国が滅びるの、楽しみだわ」
 綾音の笑い声が廊下に響き、敬一たちはその笑い声を背中に聞きながら長い廊下を早足に進んだ。悪魔どもが後を追ってくることはなさそうだ。

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