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第6章04 [宇宙人になっちまった]

 ドクターが話し終えると続けてエフが話し始めた。いつものようにドクターに机の上に座らせてもらった。
「キルケは和歌山の他にも数カ所拠点を隠していると思う。錠剤はかなりの量を製造した形跡があるんだ。製薬業界にも下僕がいると思う。一夜にして巨万の富を手に入れたような奴はきっとキルケの下僕だと思う。富と権力は人間の一番好きなご馳走だよね。これさえあれば望みは全て叶うからね。こういう連中が一番怪しいから注意しててね。僕はキルケを見張っている。何かあったらみんなにすぐ知らせるからね。量子の悪魔には気を付けてね、サードブレインはいつも狙われているからね」
 エフはそれだけ言うと後は黙った。他のグループからは、悪魔を数例見たという報告があったが、大事には至らなかったようだ。あとは悪魔に乗っ取られやすい人とそうでない人があるという推測が報告された。それは誰も感じていたことで、気の強そうな人は乗っ取られにくく、その反対で従順な人は操られやすいとのことだ。当たり前だが悪魔の弱点だ。攻め方があるかもしれない。
 病院から駅までの歩道を並んで歩いている。先頭を敬一と夢実が歩き肩が触れそうになっている。その後を陽介と絵里子が歩いているが、陽介が熱心に話している割に絵里子は時々頷くくらいだ。
 ユニコ会から三日後の夜のことだ。敬一が家族で食事をしていたら、テレビから聞き覚えのある声がする。身体が条件反射のように緊張を高め、視線をテレビに向けると信じられない光景が目に入った。綾音がバラエティ番組に出演しているのだ。慌てて録画スイッチを押し、もう一度よく見たが間違いなく綾音の顔と声だ。スラリとした足をギリギリまで露出して、かなり攻めた衣装で飾っている。新人歌手紹介のコーナーだ。曲名は「悪魔少女」。敬一は声も出ないほど驚いた。これが綾音の言う滅びの始まりなのだろうか。何を始めようとしているのか予測不能だ。すぐにユニコ会に知らせた。エフは綾音の動きをチェックしていて、テレビ局へ何度か入っていくのを確認していて、そのほかには目立った動きはなかったようだ。敬一は録画を何度も繰り返し再生した。見た目に誤魔化されたらダメだ。あいつは悪魔のキルケなのだ。敬一は何度もスロー再生して不自然な所を二カ所発見した。二カ所とも手を口に運んでいる。そして和歌山で見たあの錠剤を口に入れているのだ。口に入れるとカメラに向かって片目を閉じて見せている。これを通常の速度で観ると錠剤を口に入れるところはわからないし、片目を閉じるのは何の違和感もなく自然に見える。放送に何かの手が加えられているのだろうか。

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