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第6章09 [宇宙人になっちまった]

 浜辺と敬一には簡単すぎる筋書きだ。綾音のファンがサブリミナル効果で錠剤を飲まされ、従順になったところを悪魔に乗っ取られて自殺させられたのだ。全部綾音の書いたストーリーだ。一部のマスコミは中心に綾音がいることを知っているはずだが、それでも何食わぬ顔して綾音をアイドルとして扱い視聴率を稼いでいる。その裏の強力な圧力の存在も手に取るように見えているはずだ。自分を危険に晒してまで真実を暴露しようとする骨のあるジャーナリストはいない。優秀であれば、その危険が命に及ぶことがわかるからだ。
 敬一は眉間に皺を寄せながらテレビを見ている。どのチャンネルもウィルス説が有力になっている。それが自然発生なのか某国の陰謀なのかが議論の中心で、ウィルス原因説はほぼ既定の事実として扱われている。専門家がウィルスの可能性を指摘すればそれで十分なのだ。あとは政府の用意した学者がウィルスの画像を用意して各局にばらまけば万全だ。評論家が政府の対応を批判し、早く予防薬を用意しろと発言し、緊急時対応を声高に訴えれば完璧だ。政府は重い腰を上げたという体で、批判されながらもやりたいようにできる状況が作り出されたのだ。病院関係者でウィルス説を否定する人も現れるが、表に出てくることはない。不要な意見は全て握りつぶされる。真実を知っても口をつぐむしか方法はなくなるのだ。
 ニュース速報が流れた。政府が予防薬の無料配布を開始するという内容だ。全国民が対象で、地域の公共施設で配布するようだ。テレビでは政府の対応を評価する内容がほとんどだが、一部には対応を疑問視する声もある。しかしその声に耳を傾けようとする国民は少数派だ。明日からの配布で、行けばその場で処方される。日本人は道徳意識や公共性が高く、世界からは民意の高い国民として評価されているが、こういう場合はそれが裏目に出そうだ。批判しても、一旦決まるとその決定には従順に従うのだ。民主主義の基本だが今回は危険すぎる。敬一はもっともっと疑って欲しいと思う。国家が国民を騙そうとしているのだ。総理の実権はおそらく全て奪われ、あのお漏らし官房長官が全てを動かしているのだろう。当然バックの鎌田重蔵もグルだ。ごく少数の人間を押さえれば国を自由に操ることは可能なのだ。野党が何を言おうが痛くもかゆくもない。やかましいだけの批判は却ってありがたいこともある。大事なことから目を逸らしてくれることもあるからだ。それでもうるさいと思えば少し餌をやれば大人しくなる。

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