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第5章07 [宇宙人になっちまった]

「あの男は見覚えがある。多分、自由党の若手のような気がする。国民に人気があって、深夜の討論番組にも何度か出演していたかな。オヤジと一緒に観たことがあるよ。オヤジはあいつのことを頭の切れる男で、カリスマ性があるから将来有望株だって言ってた。ションベン漏らして震えてる男が政治の実権を握るなんて有り得ないだろう、勘弁してくれよ!」
 敬一は話の最後に大きな声を出してしまった。誰もいないと思って油断してしまった。あのションベン男がまだ薄暗い中で気を失ったようにうずくまっているのだ。声を潜めて男の様子を見ると、もう気がついているようで、身体を動かし始めた。かなり怠そうに見える。手を伸ばしてマントを掴むと、ふらつきながら立ち上がりマントの紐を結んだ。ようやく周囲の様子を気にするように見廻し始めた。敬一の声が聞こえていたのかもしれないが、仲間と思ったのだろう、それ以上気にする様子はなく廊下に出て行った。
「早くここから逃げようよ」
 夢実が心細そうな声で言った。陽介も敬一も同じ気持ちだが、まさかあれだけの人数がいるとは思わなかったし、悪魔の数も相当だった。出口は二カ所だけど、どちらから出ても見つかりそうな気がする。いざとなればパワースーツを信じるしかないが、できれば避けたい。陽介と顔を見合わせたが他に方法がない。階下の様子を探りながら慎重に下り始めた。あれほどの人数がいたのに物音一つしないのが不気味だ。踊り場から足を踏み出すと床のきしむ音がした。敬一たちではない。
「現れたわね、まさかオルギアを見られていたとは知らなかったわ。下僕が教えてくれたの、まだ誰か上にいるのかってね。どこかで見たことあると思ったら、天文部へ来たわね。せっかくだから私の正体を教えてあげる。私は女神よ。男に最高の幸せをプレゼントするの。下僕になりたがる男が多くて困るわ。だからね、私は一流の男しか下僕にしないの。
お前の正体は知ってるわ、サードブレインね。私たちの邪魔者だわ。三人を捕まえてペットにしているけどその割には優秀で使えるわ。もう一人の女もサードブレインね、一緒にペットにしてあげる。もう一人は動物にして飼ってあげる。ここにいる動物は元人間で私に懐いているの。かわいい子は生け贄にしてあげる。ほら、祭壇にいたでしょ」
 綾音はそう言うと顎を少し動かした。後ろにいた屈強そうな男が敬一と陽介の腕を掴んだ。
「おしまいだ、諦めろ」
 胸板が厚く格闘技でもやっていそうだ。
「そこ、どいてよ、出るんだから!」
 夢実がヒステリックに言うと、別の男が夢実の腕を掴んでねじり上げた。つま先立ちになって痛がる夢実は敬一の目を覗き込むように見た。
「夢実、逆らうな!」

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