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第6章01 [宇宙人になっちまった]

     第六章
 ネットでの〈ユニコーン高校生発見〉のネタは飽きられ、敬一の周辺は落ち着いてきたが、敬一自身が落ち着かない。以前よりも悪魔の発見頻度が多くなってきた。サードブレインの能力が高まってきたのだろうと敬一は思っているが、それにしてもよく見かけるようになってきた。
「見つけた?」
 教室の隅で陽介が訊いた。
「少しね、乗っ取られてる奴はわからない」
 敬一は注意深く教室内を見回した。
「おかしな奴は目の奥を覗き込めばわかる。悪魔がいれば背中が凍り付きそうになるよ。凄く嫌な感じだ」
 敬一は陽介の背中を触りながら感じる場所を教えた。今のところ要注意人物はいなさそうだ。気になるのは綾音だ。以前と同じように登校し、授業を受け、部活に参加するのだろうか。敬一は陽介と相談し、天文部に顔を出すことにした。キルケの顔を見せるのだろうか。エフに伝えると、あまり深入りしないで様子を見る程度にしておく方が安全だろうと言った。少しでも変なことが起こればすぐに連絡するようにとも言われた。
 敬一の通う高校はごく一般的な高校で、優秀ではないが、悪い評価もない。全てが平均点なのだ。その高校の天文部に悪魔を生み出す女王バチが通っている。人類の創世記より輪廻転生を繰り返し、人間の幸福を脅かし奪ってきた悪魔。肉体を持つ唯一の悪魔が目と鼻の先で、何気ない高校生活を送りながら虎視眈々と準備を進めている。一個の人間の影響力を過去と比較すれば、それは比較にならないほどに増大している。地球の救世主になることは難しいが、破壊者になることは簡単だ。都会の片隅にある平均的な高校の平均的な生徒の肩に地球の未来が乗っている。敬一にはそんな大それた自覚はないが、何かが激変するとき、その始まりは誰も気にもとめないような小さなことから始まる。敬一と陽介はその渦中にいる。
 放課後になり敬一は陽介と一緒に天文部へ足を運んだ。四階の一番奥にある部室に行くには長い廊下を通るが、日常でこの廊下を使うことはなく、三階の賑やかさを通ってくると別世界へ迷い込んだような錯覚を味わうことになる。敬一は二人の行き先に悪魔のキルケがいるかも知れないと思うと、自分たちが蜘蛛の巣にかかって藻掻いている哀れな昆虫のような気がしてきた。それでも天文部に行くには理由がある。それは綾音とキルケだ。綾音はキルケという悪魔に操られているのか、それとも綾音がキルケなのか確かめたいのだ。サードブレインは綾音は本物の悪魔そのものだと警告しているし、行くのを止めている。それでも触接会って確かめたいのはどうしてだろうか。敬一自身もよくわからない。
 ドアの小窓から覗くと、前回見た光景と変わらず長テーブルの端に綾音が座り、残り十人ほどがテーブルの隙間を埋めている。
 敬一は陽介と顔を見合わせると、ドアをノックしてゆっくり開けた。

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