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第5章12 [宇宙人になっちまった]

 正面に小さな光が2つ並んで見え始めた。ろうそくの炎のように揺らめいている。ゆっくりその光が大きくなる。敬一が身構えたとき、目の前に現れたのは血を滴らせ目を光らせているイノシシの頭部だ。鋭い牙が敬一の顎を貫き脳天に達した。
「目を開けて!」
 夢実の声で気がついた。すぐ目の前に夢実の背中が見え、その背中越しに綾音がこちらを見ている。敬一は顎に手を当て、やっと我にかえった。
「夢実って言うのかしら、大したものね。あなたのサードブレインを見くびっていたわ」
 綾音は不敵な笑みを浮かべている。
「悪魔なんて暗闇に隠れてばかりの弱虫よ、ドラキュラと同じだわ。カーテンを開けて姿見せなさいよ!」
 夢実は綾音を指さして言った。
「元気がいいのね、褒めてあげる。ご褒美にいいものを見せてあげるわ」
 綾音が傍の男に何か伝え、しばらくすると三人の男が連れてこられた。全員白い作業服を着ている。一人は少し前に地下室で見た男だ。うつろな目で綾音を見ている。
「お前たちに最高の喜びを与えるわ、首を祭壇に並べてあげる。感謝するのよ」
 綾音はそう言って動物の首が並ぶ祭壇を指さした。男たちは祭壇を見ると、それが合図のように、うつろな目に光が戻り始めた。だがその光は男たちに絶望的な怖ろしい運命を突きつけた。目に映るのは恐怖そのものだ。一人がひぃと声を出して廊下へ這い出そうとしたが簡単に連れ戻された。あとの二人は身体を小刻みに震わせながら綾音に両手を擦り合わせて命乞いをしている。
「楽しいわ、私の意のままね。何が楽しいかって、それはね、命を好き勝手に操ることよ。
特に奪うときは最高ね、忘れられなくなるの。お前たちの命を奪うことを考えるだけでわくわくするわ」
 綾音は哀れな男たちを、宝物でも見るようにしている。
「いい加減にして!」
 夢実は震える声で叫んだ。
「元気いいわね、でもその方が後の楽しみが増えるわ。そろそろ始めようかしら。燭台を用意するのよ」
 出された燭台はまるで五寸釘のようだが、もっと細く鋭く尖っている。綾音は渡された三本の燭台を丹念に眺めると、先端に指先を当てて鋭利さを確かめている。
「いいわ、始めて」
 綾音が合図をすると、先ほど逃げ出した男が後ろから首を絞められ、あっという間に失神してしまった。声を出す間もなかった。綾音は燭台を男の頭頂部に当て、渡されたハンマーを振り降ろした。燭台の尖った先端が音もなく頭頂部に沈み込み、男の身体がビクンと動いて目を開けた。ハンマーを手に持った綾音が薄笑いを浮かべながら男を見下ろしている。
「お前は人間燭台になったわ。いい出来ね。ろうそくが消えたらお前の命も消してあげる。そしたら祭壇の上ね」

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