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第6章12 [宇宙人になっちまった]

「官邸にいるよ。周りは兵士でいっぱいだよ。もしあそこに降りたらすぐに見つかるね。円盤でも手の出しようがないよ」
 エフが残念そうに言った。
「浜辺君の言うように、キルケが大量虐殺を考えてるとしたら何をするだろうか」
 ドクターは皆の顔を見ながら訊いた。
「原発狙われたら怖いですね、あれを破壊すればキルケのお望み通りの大量虐殺になると思います」
 陽介が言った。
「そうだね、僕も福島のことを思い出したよ。あれ以上に恐ろしいことは思いつかない。だけどそれほど簡単じゃないと思う。悪魔に乗っ取られた人間を増やしたところで、原発には手が出せないと思う。あの災害があってから原発の守りは相当厳重になっているからね」
「もし原発が無理だとしたらキルケはどうするつもりなんだろう」
 敬一が言うと皆は黙って考え込んだ。
「キルケはね、原発になんか興味ないのよ。あるのはね、人間が苦しむことと、人間同士が殺し合うことだと思う。昔からそうだったんだよ。きっとそうよ、今でも同じだと思うわ」
 夢実が言った。
「僕もそんな気がする。油断できないのは、人間を意のままに操る術に長けてることだね。今の状況を見れば、政権の中枢は綾音に牛耳られてやりたい放題だ。警察と自衛隊まで動かしてこの騒ぎだ。これがエスカレートして、今よりもっと強権的になるのは時間の問題だ。酷いことになるだろう。その前にどうにかしなくちゃいけない。僕たちの他にこの異常さに危機感を感じている人がきっといるはずだよ。どうにか探せないか」
 ドクターが皆に訊くと、ネットで情報を集めることになった。こういう作業はサードブレインに任せると的確にできる。信頼できる情報かどうかも間違いなく選択してくれる。
 一時間もすると相当数の情報が整理されてきた。やはり警察や自衛隊の動きを早めに察知して上手く逃げて隠れている人たちが相当数いることがわかった。ただし、誰も自分の名前や居所は隠している。隠しながら仲間を集めようとしていることがわかってきた。
「みんな家族や友達は大丈夫か?」
 ドクターが訊くと、皆は顔を見合わせながら、大丈夫そうだと返事をした。家族から更に他の家族に連絡して、その数は相当数になるだろう。処方会場に行っているのは、高齢者や一人暮らしの若者、それに思春期の若者のいる家族が多いようだ。自殺者に思春期の若者が多いと聞くと、少しでも早く処方薬を手に入れたいと思うのだろう。

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