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第7章05 [宇宙人になっちまった]

「たぶん、大丈夫」
 エフが言った。こんな場面で多分はやめて欲しいが、顔を少し出してもう一度様子を探ると、銃口が正確にドア付近を狙ってピタリと動かない。
「銃を集めて」
 エフがそう言いながら腕をくるくる回した。中に入れという合図だろう。敬一は銃を構える兵士の顔や引き金に伸びた指の動きを交互に見ながら一歩中に入った。薄暗くて見にくいが、顔や指が小さく震えるように動いている。薄暗さに慣れると顔の筋肉は痙攣したように動いているのがわかった。
 敬一は兵士の銃に手をかけ、引き金に触れている指をそっと離してから銃を奪い取った。敬一の動きを見ていた夢実や陽介、絵里子も加わって銃を奪い取った。兵士たちは身体を小刻みに震わせながら耐えているように見える。銃をドアから外に放り投げると、職員は自分の肩にかけ、残りは屋上から投げ捨てた。
 エフは一人で廊下の先を歩いているが、後ろから見るとぼんやり光っているように見える。その光を追うように、敬一たちや職員が後に続いて歩く。廊下に面したドアは全て開けたが、中は執務室のような小さな部屋ばかりだった。この階にキルケはいないようだ。エフは何かのセンサーで感じ取っているのか、ドアには見向きもしないで歩いている。エフが通り過ぎると、銃を奪われた兵士はゴロリと廊下に倒れた。エフの力を見るのは初めてだが、何をどうしているのか理解できない。今までは円盤からあまり離れることはなかったが、今は違う。まるでキルケの居場所を知っているみたいに迷いなく進んでいる。今まで見たことのないエフだ。
 下の階が騒がしい。廊下は厚い絨毯が敷かれているが、それでも足音と金属の当たる音が重なり合い階段から響いてくる。
「下の階に行くよ、たくさんいるね」
 エフが階段を早足で降りて行く。突然銃声が響いて、踊り場に掛けてある油絵が小さな音を立て穴が開いた。エフはその前に立ち止まり動かない。銃声が一斉に響き油絵に無数の穴が開き、壁に当たった弾は壁面を削っている。敬一たちはその銃声を踊り場の上から聞いているがなかなか終わらない。火薬の匂いと煙が踊り場に充満すると銃撃は終わった。エフはまだ絵の前に立ったままだ。エフの身体から出る光が強くなった。エフは敬一たちを見ると、降りてくるように手で合図をした。エフは無傷で立っている。まるで魔法を見ているようだ。敬一はゆっくり階段を降り踊り場に立つとエフのすぐ目の前に兵士が数人固まったように立っている。先ほどと同じような光景だ。何がどうなっているのだろう。
「弾は全部使っちゃったみたいだからそのままでいいよ」
 エフはそう言ってまた前に歩き出した。この階の部屋数は少ないが、大きな広間が幾つかあるようだ。しかしエフは広間には見向きもしないで通り過ぎていく。
 この下の三階には正面入り口があり、おそらく兵士は一番多いはずだ。外にも溢れるほどの兵士がいる。
「僕は少し頑張りすぎたよ。疲れちゃった。ここで少し休んだ方がいいと思う」
 エフは下に降りる階段の前で座り込んでしまった。下の階が騒がしいが、ここに上がってくる気配はない。どうやら玄関が混乱しているようだ。

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