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第6章22 [宇宙人になっちまった]

「すぐ戻るから待ってて!」
 エフはそう言って円盤の中に消え、円盤もあっという間に見えなくなった。押し合いは激しくなり、ドアに隙間が少しできるとそこから手が伸びてくる。ドアを押し返すと手が挟まれて腕から血が滴っている。それでも手を引こうとしない。それどころかその隙間に更に別の手が入ってくる。手や足がたくさん挟まれ、頭まで隙間に入れてくる。ドアの下にはたくさんの血が溜まりだした。奴らにとって痛みは何の意味も持たないようだ。若い筋肉質な男が頭から血を流しながら上半身をドアから出すと、それをきっかけに大きくドアが開き、数人がドアから転がり出てきた。だれも手や足から血を流している。足をひきずるように立ち上がった男が目の色を変えて職員に襲いかかろうとしたが、サーチライトに照らされ急に動きを止めた。その前に垂木を振りかぶった職員が立っている。肩を大きく上下に動かしながら睨んでいる。一緒に転がり出た男たちも同じで、身体のあちらこちらから血を流しながら動きが緩慢になった。強力なサーチライトが効いたようだ。しかし、サーチライトの届かないドアの内側では殺気立った人が後から後から階段を上がってきてドアを死に物狂いで押してくる。一度は押し返してもすぐに押し返され数人が転がり出てくる。サーチライトの照射範囲はそれほど広くない。、せいぜい直径十メートル程度だ。その外に出ればどうなるかわからない。垂木を持った若い男たちが、光から出た殺人鬼が動き出す前に殴っている。
「こっちだよ、早く乗って!」
 エフの声だ。敬一は年齢の高そうな人から円盤に誘導した。十数人が限界のようだ。あっという間に円盤が姿を消し、残った人もドアを押すのが限界になってきた。若い職員数人と報道局の伊東さんとユニコ会だけが残っている。サーチライトを浴びて立ち尽くす殺人鬼を押し倒すように後ろから次々に出てくる。もう時間の問題だ。光の輪から押し出された殺人鬼が再び動き出せばどうしようもない。挟み撃ちだ。ユニコ会はスーツを着ているから攻撃を避けることはできるが、伊東さんや若い職員はひとたまりもないだろう。
 ドアが完全に開いて閉めることは不可能になった。屋上に飛び出しても、いったんは光を浴びて大人しくなる。だけど光から出ると再び殺人鬼になってしまう。その動き始める前に倒さないとこちらがやられてしまう。垂木を持った職員が返り血を浴び、鬼のような形相で動き回っている。敬一も垂木を持って殴ろうと思ったが、どうにも身体が言うことをきいてくれない。スーツのせいだ。スーツが攻撃的な動きを勝手に拒否してしまう。たとえ強引に頭を狙って振り下ろせても垂木は必ず空振りになってしまう。自分を守ることはできるが、人のためには何の役にも立たない。

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