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第6章25 [宇宙人になっちまった]

「その、大天才のアンテナが信じろって言うのか?」
 ドクターは苛立っている。理屈を正確に積み上げて結論を導き出すドクターの思考方法では理解できず、拒絶感だけが虚しく残る。
「そうよ、信じるの。サードブレインを信じるのよ」
 夢実はドクターを納得させられない。
「それに、宇宙の中心と繋がるってどういうこと、浜辺君と敬一君はわかるの?」
 ドクターは夢実を諦めて二人に訊いた。
「先生は直感って信じますか?」
 浜辺が言った。
「直感ね、僕はあまり信用しないね。だってその根拠を人に説明できないからね」
 ドクターはクールに答えた。
「サードブレインは優れた直感マシンなんです。通常の感性では捉えることのできない情報をサードブレインは捉えているんです。例えば宇宙線だったり素粒子の動きだったり、精密な機器でも捉えきれない量子レベルの出来事も感知して分析もしているんです。過去のデータも記憶していて、それらの膨大な情報を全て統合して結論を導き出しているんです。その過程はスパコン以上に緻密で超論理的なのです。通常の脳細胞のネットワークでは理解できないので、結論だけ知らされるんです。それが直感なんです。宇宙の中心と繋がるというのは、夢実さんのいい例えだと思います。僕も似たような感覚なんです。エネルギーの根源みたいなことです。人類が最初に感じた神様かも知れません。いつの時代の人間もこの神様と繋がることを求めたと思います。だからその方法を探して色んな神様が生まれたんでしょう。人間は本能的にエネルギーの根源を知っているんです。そこが人間の生まれた場所だからです。サードブレインはその根源と繋がる優れた端末装置なんです。電磁波を出すのはおまけのような機能で、本当の力はもっと凄いと思います。でも僕にもそれがよくわからないんです。サードブレインが信じろと言うのはそのことじゃないかと感じるだけで、具体的には何もわからないんです」
 浜辺は話し終えると、少し申し訳なさそうにした。明確に説明できなかったからだろう。
「僕の専門は脳外科で、サードブレインと名付けたのも僕だし、君たちの脳は僕が一番よく知っているつもりだ。だけど今の話を聞くとね、医者は端末装置の構造の一部を細かく調べているだけで、大事なことは何もわかっていないかも知れないね。君たちがサードブレインを信じるというなら、僕は君たちを信じることにするよ。そしてサードブレインの直感を信じてみようと思ったよ。僕も宇宙の根源に触れてみたいね」
 ドクターはそう言って最後に微笑むと、
「話が長くなったね、今日は皆も相当疲れてるだろう。もう休もうか、いいよね、これからのことは明日相談しよう」
 と言って身体を横にした。この施設にはかなりの人数が長期間過ごせる用意がしてある。キルケはまだこの施設を使うつもりなのだろうか。そうだとしても朝までは大丈夫だろう。円盤からは、この施設に近づく車などの動きは見なかった。

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