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第7章03 [宇宙人になっちまった]

 敬一はその悪魔を指さしながら声を出した。それは一瞬だった。悪魔の後頭部からゴルフボールくらいのシルエットがフワリと浮き出して消えた。よほど注意して見ないと、おそらく背景に紛れて見極めるのは難しいだろう。
「きっと悪魔よ、目から入る強い光は直接脳に届くのね。光子が量子ネットワークを壊すのよね」
 夢実が言った。敬一には光子と量子の関係は理解できないが、夢実の直感は当たっているかもしれない。しばらくその悪魔を見ていたが、再び悪魔が乗っ取ったような気配は見られなかった。
 直射日光を浴びている間は活力を失ったようになり、そこに強力な光を瞳孔に直射されると、悪魔が脳から逃げ出すという情報があっという間に拡散された。これで車の進路を遮っている悪魔を排除できるだろう。円盤から見ると、官邸を取り巻く道路上で同じような光景が見られ、ゆっくりだがライトを点灯した車が官邸に近づいている。エフたちは周辺上空で道路状況を確認すると官邸に向かった。慎重に周辺を観察しながらだ。官邸周辺は木陰も多く注意が必要だ。
 エフは円盤を官邸上空で停止させ、慎重に観察した。ヘリポートはあるが、ここも迷彩服が溢れている。直射日光から身を遮る物がなく、自動小銃を持った悪魔は時々仲間と肩をぶつけながら不自然に歩き回っている。これなら屋上に降りても攻撃されることはなさそうだが、官邸のどこかにキルケがいることを考えると油断はできない。官邸は傾斜地に建てられているため入り口は西側の一階と東側の三階にあるが、そちらは地上部隊の侵入経路だ。エフたちは屋上から侵入する。サードブレインを上空から瞬時に地上に降ろすこともできるが、そのリスクは高い。万が一自動小銃を発射されたら、スーツでは守り切れないだろう。エフは徐々に高度を下げると電磁波を照射して確実に悪魔の動きを押さえるようにした。ただ屋上エリアが広いので全ての悪魔には照射できない。電磁波が効いている悪魔は完全に動きを止めてしまうが、端の方では動いている。建物内へのドア周辺に照射してしばらく様子を見ると、動いている悪魔がドアに近づくようなことはなかった。
「いいだろう、降りるよ」
 エフがそう言うと、敬一たちはドアの前に立っていた。入り口近くに立っている悪魔の背中を押してスペースを作ると、円盤がゆっくり屋上に着陸した。職員が二人がかりで大きな工具を持って降りてきた。ドアをこじ開けるためだ。屋上は太陽光と電磁波のおかげで安全に作業ができそうだが、ドアの向こうの様子がわからない。それに敬一たちの行動はモニターで監視されているはずだ。総理官邸にそう簡単に入れるとは思えない。ドアを開けた途端に一斉射撃されることもあり得る。かといってここで引き返すわけにもいかない。地上部隊はようやく官邸周辺にたどり着いたばかりで、これから先が危険なのだ。下からの協力は期待できない。

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