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第6章30 [宇宙人になっちまった]

 待っていた放送局の職員もネットで各地の様子を把握したり、地方局員と連絡を取り合って放送再開を計画するなど、反撃の準備をしていた。
「待たせたね。街の様子はエフの言ったように、悪魔は光に弱かった。だけど油断はできないと思う。サードブレインが進化すれば悪魔だって進化するかもしれないからね。今のうちに動いた方が有利だと思うがどうだろう」
 ドクターが皆の様子を見ながら言った。
「僕もそう思うよ。悪魔は量子ネットワークの生命体だからね、すぐに変化することができるよ。だから恐ろしいんだ」
 エフが珍しく緊張した様子で言った。
「私たちも一刻も早く行動を起こすべきだと思います。放送再開はいつでも可能です」
 職員の伊東さんが言った。ネットで情報を掴んで判断できる人はいいが、そうではない人が大半で、その人たちは突然近所の人が何人も殺人鬼になって徘徊し始めたのを見ても理解できない。状況がわからないまま怯えて隠れているしかない。頼りになるのはテレビなのだ。
「皆の意見は、明るく有利なうちに行動を起こすことで一致したが、具体的にどうするかだ。肝心なことがまだ見えていない」
 ドクターは皆に問いかけた。
「私は放送再開を優先すべきかと考えます。怯えて隠れている人を安心させることと、味方を増やすことが大事だと思います」
 伊東さんが力強く話した。放送局職員の中には、昨夜の恐怖を思い出して二度と放送センターには行きたくないと考えている職員と、公共放送としての使命を果たしたいと考えている人が半々だった。
 ユニコ会の仲間は、自分たち意外にキルケを倒せる者はいないと考えているし、サードブレインは自分を信じて今すぐ行動するように言っている。家族が心配だったりするが、冷静に判断すれば、自分たちの素早い行動が家族を救うことに直結すると理解できる。
「それでは、決めましょう。色々意見はあると思いますが、やはり再度放送センターに行って放送を再開するべきだと考えます。よろしいでしょうか」
 ドクターは覚悟を決めて、やや強引に結論を言った。数人の職員が反対意見を述べたが、やめたとしても状況を打開できる方策は見当たらないし、黙って隠れていれば状況はもっと不利になる。やめたい気持ちは誰にも理解できるが、それでは何も解決しない。厳しい判断だが、行動することで話し合いは決着し、具体的な計画を話し合った。
 放送の再開は決まり、悪魔が明るさに弱いことを知らせることと、地域ごとに自警組織を作ることを呼びかけることになった。協力し合えば、昼のうちに悪魔を拘束してしまうことも可能になる。問題はキルケをどうするかだ。キルケは官邸で高みの見物で、五百万の悪魔が人間を殺してくれる。警察も自衛隊も悪魔に乗っ取られている今は、武力で制圧できる人間がいない。昼間弱くなった悪魔が殺されたとしても、キルケはそれも望むところなのだ。どちらにしても人間が苦しみながら死ぬのが一番の喜びなのだ。

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