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第7章07 [宇宙人になっちまった]

 この先にも悪魔が待ち構えているだろう。エフはまだ来ないが、ロケ用の照明装置を敬一と浜辺が持ち、この光を先頭にしてその後に自動小銃を構えた放送局職員が続いた。自動小銃を持っていると言っても、射撃経験のない素人が引き金を引いたところで的に当たるとは思えない。お守り程度にしかならないだろう。光が網膜を通して脳細胞に伝わる速度が速いか、脳からの命令が引き金にかかった指に伝わるのが早いか、その差に敬一たちの命が懸かっている。
 浜辺と敬一が並んでゆっくり歩き始めた。時々動きを止めて気配を探るが、装備を身に付けた兵士が動く時に出るガサガサした音はしない。二階のホールは不気味なくらい静かで、三階の騒音が嘘のように聞こえない。どこかに潜んで敬一たちが罠にかかるのを待っているのだろうか。物音を立てないよう細心の注意を払い、少しの暗闇も見逃さないように照明を当てながら歩いた。仲間の上着の小銭の音に身体がビクンと反応して立ち止まり、申し訳なさそうな仲間の顔を見てまた先へ進む。何事もなく無事に一階までたどり着いたが、その方が余計に緊張感と不安を掻き立てられる。後は地下の危機管理センターを残すのみだ。照明装置を先頭にして地下への階段をゆっくり降りると、目の前に厳重な扉が姿を見せた。何重ものセキュリティに守られている。ここのセキュリティは国家そのものと言っていい。ここが破られたら、それは国家が破れるのと同じことだ。
 予測はしていたが、いざ目の前にすると気持ちが萎えてしまう。サードブレインの能力を持ってしても開けられそうにない。敬一は半ば諦めかけて皆の方を振り返ると、夢実が黙ってドアを見つめている。
「電子回路の組み合わせと、物理的な部分は電磁気制御ね。電子の動きを丁寧に追えばいいのよ。迷路ゲームと同じね。敬一君は電磁気制御は得意でしょ、任せるわ。私は電子を追うわ」
 夢実はそれだけ言うと、ドアの前に膝を折って座った。そのまま電池が切れた玩具のように動かない。耳が少し赤くなり、髪の毛が静電気を帯びたようになってきた。身体の輪郭がぼんやり光っているように見える。先ほど見たエフの光みたいだ。
「敬一君の番よ」
 夢実が小さな声で言った。敬一は任せると言われていたが、何をどう任されたのかさえわからない。黙って立っていると頭の芯が熱くなってきた。
「見えた!」
 敬一の口から思わず言葉が出た。何が見えたのかわからない。でも何かがとてもクリアーに見えたことだけはわかった。
「いいよね」
 夢実が言った。
「ああ、いいよ」
 敬一が返事をした。何がいいのかわからない。だけど、いいことだけは明確に理解できる。自分を超える自分が居て、いつもの自分を強引に引っ張ってくれる感じだ。こいつに任せれば大丈夫だと思える。そう思ったとき、頭の芯から何かが飛び出そうな気がして思わず目を閉じた。それは瞬間だったように思うが、目を開けたとき、ドアの上にある赤いライトがカチリと小さな音を立てて緑色になった。
「さすがね、開いたわ」
 そう言って夢実が微笑んだ。

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