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第6章13 [宇宙人になっちまった]

「ドクター、少し様子が変わってきました。午前中は警察も自衛隊も規律のある動きに見えたのですが、午後になると動きが緩慢です。警察も自衛隊も処方されていたんですね」
  浜辺が処方会場を見ながら言った。確かに午前中とは別人のように見える。立つ姿勢がまるっきり違うのだ。まるで緊張感がなくライフルの銃口が地面に当たったまま引きずるように歩き回っている。会場入り口に立っていた隊員は持ち場を離れて付近を目的もなく歩き回っているように見える。処方薬が効き始めたように見える。悪魔に乗っ取られているかはわからない。自衛隊の車両が電柱に衝突している。脳の活動が緩慢になってしまったのだろうか。
「状況が見えてきました。やはり相当数の人が不信感を抱いたようですね。初日に行った人は少数です。警察や自衛隊が各戸訪問したときは家の奥に隠れていたようです。これなら二日目以降に処方会場に行く人はいないでしょう」
 夢実が皆の情報をまとめて伝えてくれた。
「今はフラフラと歩き回っているだけのように見えるが、エフはどう思う?」
 ドクターが訊いた、
「悪魔はどんなに隠そうとしても目を覗き込むと見えるんだ。上からだとはっきりしないけど、たぶん違うと思うよ」
 エフは自信なさそうに言った。
「そろそろ処方会場を閉める時間ですけど、ちょっと変です」
 浜辺が下を見ながら言った。誰も会場を閉めようとしないどころか、担当者らしき人が逃げるように会場を出て行くのが見える。その後をマイクを持ったマスコミ関係者が追っている。足早に動き回る人と、フラフラ無目的に歩き回る人がぶつかりそうになっている。この状況を目にすれば誰だって服薬が恐ろしい罠だとわかる。マスコミ関係者は皆機敏に動いているから服薬していなかったようだ。おそらく全国どこの会場も似た状況なのだろう。円盤の中でテレビをチェックすると、どのチャンネルも放送を維持している。だが放送内容は混乱を極めている。現場中継のカメラも途切れがちで詳細がわからないのだ。ほとんどは会場に設置された固定カメラの映像が時々映るが、画面にはフラフラとうつろな目をして歩き回る人が見えるだけだ。服薬していない人はどこかに逃げてしまったのだろう。この映像を綾音もどこかで見ているに違いない。
「まだ悪魔に乗っ取られていないとしたら、いつ乗っ取るつもりなんだろう」
 陽介が言った。
「待っているのかもしれないね。できるだけたくさんの人が服薬するのを。それが終わったら悪魔が動き始めるのかもしれない」
 ドクターは不安そうに言った。
「じゃぁ、今かもしれない」
 敬一は下を見ながら言った。
「緊急放送だって!」

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