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第6章28 [宇宙人になっちまった]

「ネット上で、処方されなかった一部の人たちが組織化しようと動き始めているようですが、現状を知らせ合う程度しかできないようです。外に出るときは、殺意がないことを示すアイテムとして、腕に白い布を巻ことを拡散中ですね。ただこれも不安は残ります。ダミーで白い布を巻いて安心させておいて食料を奪う奴が現れるかもしれません。どうしたって疑心暗鬼になってしまいます」
 女性職員が不安そうに話した。
「相当厳しい状況のようだ。生き残れるのは、疑い深くてずる賢くて、暴力に長けた奴だ。人を信じて正直に生きてきた人は真っ先にいなくなってしまう。僕たちが諦めたら間違いなくそうなってしまうだろう。だけどそうはさせない。絶対だ。キルケは五百万の悪魔を操ってる。僕たちはたった五十人だ。どう考えても勝ち目はない。だけど知恵を絞ろう」
 ドクターは皆に意見を求めた。
「おはよう、いい天気だけど悪魔ばかりだね」
 朝から姿の見えなかったエフが、どこからか急に現れた。
「どこへ行ってたの?」
 夢実が訊いた。
「あちこち行ってたよ。今までは見つからないようにしてたけどね、今は特別だからね、みんなからよく見えるように飛んだら屋上とかベランダから手を振ってくれた。僕は有名人だからね。でもね、そんなところは少しだった。血を流した人がたくさんいて。悪魔が多すぎるよ」
 エフは困ったような顔を見せた。
「息を潜めて隠れている人の希望はエフとサードブレインなんだよ。手を振ってくれた人はエフが必ず助けに来てくれると信じていると思う。僕だってエフとサードブレインが希望の星なんだ」
 ドクターはそう言ってエフを見た。エフはいつものように微笑みながら、少し間を置いて話し始めた。
「一つね、いいこと発見したよ。昼間は弱くなってる。光子が当たると量子ネットワークが混乱するみたい。昨日の夜もサーチライトが当たると動きが止まったよね。だから、昼間ならキルケに近づけるかもしれないね」
「それが本当ならチャンスはある。確かめてみよう」
 ドクターの言葉で、ユニコ会で実際に確認することになった。近くの繁華街に行き、実際に地上に降りて確かめるのだ。ユニコ会ならスーツを着ているので少々のことなら大丈夫だ。駅前上空で様子を見ると、悪魔と思われる人でいっぱいだが、昨日の夜のような機敏な様子は見られない。のんびりと歩く人がほとんどだが、その傍らには無残な死骸が転がっている。あの中に普通の人もいるかも知れないが、昨日の夜の感じだと悪魔は普通の人間を嗅ぎ分ける感性を持っていた。そうだとしたら襲われそうだがそんな様子はない。悪魔の感性が鈍っているのか、普通の人がいないかだ。とにかく下に降りてみないと何もわからない。浜辺と敬一のグループが、人通りの少なく目立たないところに降りた。周囲を確認したが、敬一たちに気づいていないように見える。しばらく観察したが、目的を持って歩いているような人は見当たらない。さりげなく接近して瞳を覗き込むと、背中が凍り付いた。瞳の奥から冷たく睨んでいる奴がいるのだ。しかし動きは緩慢で、まるで気づいていないかのように歩いて行った。

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