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第6章23 [宇宙人になっちまった]

一人の職員が頑強そうな殺人鬼を垂木で殴ったが、簡単に防御され垂木を奪われてしまった。殺人鬼はにやりと笑うと、立ち尽くす職員の頭に真上から垂木を振り下ろした。頭頂部から大量の血を吹き出しながら倒れ込んだ職員を踏みつけながらその男がこっちへ向かってくる。他の職員を助けようと思えば自分に注意を惹き付けるしか方法はないだろう。敬一が大きな声を出して男を睨みつけると、男の視線が敬一に止まり一直線に向かってくる。敬一は皆から離れるように逃げ出した。ヘリポートを見ると円盤が到着し、浜辺が皆を誘導して乗せている。敬一を追っているのは数人で、円盤を見つけた殺人鬼が群がり寄っている。サードブレインが盾になって職員を乗せようとするが防ぎきれない。浜辺が押し倒され、首を絞められている。スーツの力で跳ね返すことができないほど囲まれ、押さえ込まれている。敬一が攻撃をかわしながら浜辺を助けようとしたとき、奴らの動きが止まった。円盤の中からエフが姿を現し、浜辺は辺りを見回しながらゆっくり身体を起こした。
「電磁波を出してるからしばらく効いていると思う」
 エフはそう言って皆に手招きした。フラフラと歩きながら職員やユニコ会のメンバーが円盤に集まってくるが無傷な人はほとんどいない。幸い武器を持った奴はいなかったので、殴る蹴るの暴行をされた人がほとんどだ。垂木を奪われ頭部を打たれた若い職員が一人犠牲になった。
 お互い助け合いながら円盤に乗り、屋上から離陸した。いつもならあっと言う間に地上は見えなくなるが、今回は少し浮上した後、屋上を旋回するように動いた。電磁波を受けて大人しくなった人で溢れているのに、ドアからは血相を変えた人が次々に出てくる。普通の人がいないことを確認すると、あっという間に上昇した。
「着いたよ」
 いつも通り早い到着だが、どこに来たのだろう。今の状況では安全な場所はない。どこに行こうとキルケに狙われる。放送では、キルケに出て行けと勇ましいことを言ったが、現実は自分たちが居場所を追われ出て行くことになった。だけど、放送を見た人たちは、宇宙から来たエフという子どものような宇宙人が日本を救ってくれると期待して待っている。
「降りるよ」
 エフはそれだけ言うと、高度をゆっくり下げている。サードブレインだけの場合は瞬時に地上に降ろしてくれるが、今回は職員がいるからなのか、円盤を地上に着陸させた。
「見覚えあるよね」
 そう言われ、外を見て驚いた。キルケの拠点だ。あの忌まわしい儀式の現場だ。
「今は誰もいないよ。みんな出て行った。君たちの先輩のサードブレインはね、キルケと一緒に東京にいる。工場も使わないと思う。ここが日本で一番安全だね。誰も来ないよ」
 エフはそう言うとみんなに円盤から出るように促した。長い一日の日付がもうすぐ変わろうとしている。

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