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第6章20 [宇宙人になっちまった]

「僕たちはここに日本の国の臨時政府の樹立を宣言し、日本国憲法が引き続き有効であることを宣言します」
 浜辺はマイクに向かって大きな声で宣言した。
「臨時政府の代表は、エフです」
 浜辺はそう言うとエフに視線を向け、エフはもう一度話し始めた。
「僕たちの目的はキルケをこの星から追い出すこと。キルケはこの放送見ているよね。見ていたらすぐにこの星を出て行くんだ。出て行かないと僕たちが君を退治するよ」
 エフはそう言うとカメラに向かって厳しい顔をして見せた。大人から見ればとんだ茶番劇だ。高校生の集団が臨時政府の樹立を宣言し、その政府の代表は小さな子どもなのだ。
これはなにかの冗談かと思うのが普通だが、円盤を見たことと、エフの登場は衝撃が大きい。エフの顔をアップで見ると明らかに人間とは違うのだ。宇宙人というのが一番しっくりくる。息を潜めてテレビを見ている人たちは、なにかの始まりを感じたに違いない。敬一は横からエフを見ながら希望を感じた。きっとテレビの前でも同じはずだ。小さな子どもが希望を与えてくれる。あの魔法のような笑顔を見るだけで元気が出てくるような気がした。
 この後は浜辺や敬一たちが、悪魔に乗っ取られた人から逃げる方法や隠れる方法などを細かく説明し、知的能力は低下するが、運動能力や職業に関係した能力は維持していることが多いので注意するように伝えた。また乗っ取られた相手が高齢者であってもこっちが攻撃すればやってることは悪魔と同じになって、結局キルケが一番喜ぶだろうとも言った。キルケの大好物は殺し合うことなのだ。あとは悪魔が強い光源や電磁波が嫌いなこと、鍵をかけて家の中に隠れていること、外に出るときは強力ライトを持って出ること等を伝えた。
 最後に、錠剤を服用していない人でも乗っ取られることがあるので、もし急に背筋に寒気を感じたら、迷信のようだが心の中で口汚く罵倒すると入れなくなることも伝えた。キルケの生み出す量子の悪魔は気の小さい奴だから、相手の弱みを見つけると途端に大きくなって見せるのだ。そこらのチンピラと同じなのだ。
 生中継はこの後、屋上カメラから渋谷の市街を映した。交通量は少ないが車のライトが流れている。運転しているのは悪魔に乗っ取られた人かも知れない。ノーマルな人を見つけたらアクセルを踏み込んで突っ込んでいくのだろう。
 各地の中継は途切れたままで、中継スタッフとも連絡は取れない。
「何か変よ!」
 屋上から地上を見ていた夢実が叫んだ。車のライトばかり見ていたが、歩道をよく見ると大勢の人が列を作って歩いている。車道に溢れるほどだ。その列がこの放送センターを目指しているように見える。
「キルケよ、キルケだわ。放送見たのよ。ここに集めてる!」
 夢実が言った。

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