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第6章16 [宇宙人になっちまった]

「放送局だ。NHKテレビを使おう。エフに言うとすぐに渋谷上空に来た。やはりここにも自衛隊員が多数歩き回っている。手には自動小銃を構え、人間を見つけたらすぐに射殺するのだろう。
「エフ、円盤から電磁波出してくれ、奴らの動きを鈍くしてくれればいい。その間に俺たちは局内に入る」
 浜辺が的確に指示を出し、グループ単位で行動することになった。目的は自分たちの映像を全国に放送することだ。ひっそり隠れている人たちと力を合わせて悪魔に対抗するためだ。必ず情報を求めてチェックしているはずだ。早く放送して怯えている人たちに勇気を与えたい。エフは見学コースの入り口付近に降ろしてくれた。近くに数人の隊員がいるがぼんやりした表情でふらつくように歩いているだけだ。電磁波が効いているのだろう。敬一たちも電磁波ビームを出せるし得意だが、相当のエネルギーを使って疲れてしまう。円盤からの支援はありがたい。中に入ろうとしたがやはり自動ドアは動かずロックされている。電磁気的な回路なら自分たちの力で解除できるはずだ。敬一は自動車を動かしたことを思い出しながら気持ちを集中すると手応えを感じた。自動ドアに手をかけ動かしてみると、かなり重いがゆっくり動いて隙間ができた。そこから全員が中に入りもう一度ロックをかけた。後は中にどれほどの悪魔がいるかだ。注意深く進まないと危険だ。スーツを着ていても突然の発砲などは避けきれない。館内には防犯カメラが多く設置されている。浜辺が段ボールの切れ端にマジックで大きくメッセージを書いた。〈だれかいませんか、僕たちは悪魔ではありません〉。このメッセージをカメラの前に差し出した。誰かが見つけてくれば何かのアクションを起こしてくれるだろう。エレベーターもエスカレーターも止められている。用心深くエスカレーターを上っていくが物音一つしない。四階まで進むと防火扉に妨げられ進めなくなった。ここの扉は物理的な構造部分もあって電磁気だけでは開けることができない。浜辺たちは顔を見合わせたが、来た道を戻るしかない。諦めて戻りかけたとき、重そうな扉の一部が動いて開いた。一人が頭を下げて通れるくらいのドアだ。
「急いで!」
 頭の薄くなった中年の男が上半身を出し、手招きして呼んでいる。かなり警戒しているから安全ではないようだ。
「全員で行動していた為、入り終えるまで時間がかかった。男は怯えて何度もドアの外を見ながら急かした。
「悪魔を見たか?」
 ドアを閉めると男が訊いた。見学コースの入り口付近にいたことと、中に入ってからは見ていないと浜辺が応えた。見学コースの扉をどうやって開けたか訊かれて、敬一が超能力で開けたと言うと、表情が曇りあからさまに警戒する素振りを見せ、
「証明して見せろ」
 と言った。悪魔ではないとわかってもこんな事態では疑い深くなって当たり前だ。床を見ると所々に汚れが見える。拭き取られているが血の跡のようにも見える。敬一は辺りを見回した。長い廊下が続いているだけだ。電磁波ビームの効果を見せられそうなものはない。敬一は少し考えてから天井を指さした。敬一の真上だ。
「見ていてください。消します」
 敬一はそう言って天井の長い蛍光灯を見つめた。数秒足らずで真上の一本だけが暗くなり、同じ列の蛍光灯は変わらず廊下を照らしている。中年の男は蛍光灯と敬一を見比べて何か言いたそうに口を開けている。
「点けて!」
 男は号令のように言った。敬一はコツがわかったので瞬時に点けることができた。男はすぐには納得できなくて、同じ動作を数回繰り返すとため息をついた。
「わかった。君は本物だ。トリックじゃできない。君の能力を認めよう」
 男は観念したように言った。首から報道局・伊東と書かれた名札をぶら下げている。

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