SSブログ

第6章31 [宇宙人になっちまった]

 敬一たちに残された道はキルケと直接対決するしか方法がない。官邸の奥にいるキルケをどうやって始末すればいいのだろう。いい考えが出てこない。皆が黙り込んだとき、駅前のスーパーで保護した女の子が控えめに手を挙げた。
「あの、そのキルケって言う悪魔をみんなで取り囲むことはできないんですか?」
「取り囲むって、官邸の周りは乗っ取られた自衛隊員や警官で足の踏み場もないくらいだよ。そんなところにのこのこ出かけていったら、例え昼間でもこっちがやられてしまうと思うよ」
 ドクターが優しく答えた。
「ちょっと待ってください。もしかしたらできるかもしれません」
 浜辺がそう言って話を続けた。
「放送を利用するんです。強力な照明装置を持って官邸に来るように呼びかけるんです。関東地域の人に協力を依頼しましょう。工事用の照明装置とか、電源車とか、イベント用の照明装置もいいし、サーチライトを車に取り付けてもいいと思います。光で官邸を取り囲むんです。昼も夜もです。ライトアップ作戦です。そうすれば手も足も出ないはずです」
 浜辺は手を大きく動かしながら力強く話した。先ほどまで俯いて考え込んでいた人も、顔を上げて浜辺を見ている。顔に生気が戻ってきたようだ。今まで絶望的なことばかり見て弱気になっていた人も、ほんの少し希望が見えたに違いない。全体の雰囲気も実行の方向に動き、反対の意見は出なかった。ただ、悪魔が光に弱いという前提が崩れた時の対応を考えておくことが必要と言う意見が最後に出された。誰もそれが大切なことは理解したが時間がない。リスクがあることは承知の上だが、放送再開とライトアップ作戦に向けて動き始めた。

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ: