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第6章27 [宇宙人になっちまった]

 頃合いを見計らうようにドクターが話し始めた。
「みんな、おはよう。身体の具合の悪い人は遠慮なく言ってください」
 そう言ってゆっくり全員の顔を見た。怪我をした人は部屋の壁に寄りかかりながら話を聞いている。
「じゃぁ、始めよう。これからのことだが、話し合う前に少し情報が欲しいんだが、誰でもいいから知ってることを話してくれ」
 ドクターがそう言うと、大きな声で歌っていた職員が手を挙げて話し始めた。
「報道局の塩原です。ネットはまだ機能していますし、ライフラインもなんとか維持できているようです。悪魔は街に溢れているようですが、しっかりガードされた施設では障害は出ていません。大きく障害を受けているのは交通機関ですね。全部止まっていると思います。それから官邸からの放送の衝撃は想像以上です。日本国が消滅したんですから。誰も疑心暗鬼です。頼るべき隣人が最も危険な存在になったんです。お互いにそう思っているから、家の中でビクビクしながら隠れているしか身を守る方法がないんです。ネットには家の中から隠し撮りした映像とか、自分の殺人行為を自慢げに撮影してアップしている人もいます。悪魔に乗っ取られた老人を選んで殺している人もいます。悪魔よりも悪魔な人間が街中で殺人を楽しみ始めています。ライブカメラを見るとどこも似たような状況で、狂ったように人が走りまわっています」 
 塩原という職員が携帯を操作しながら話してくれた。話し終わるとすぐに山下という男子が手を挙げて話し始めた。
「僕はエフの放送を調べてみました。生放送で円盤の着陸を見た人は、救世主が現れたと拡散しています。着陸の場面とエフの顔の画像が一番ヒットしています。高いところからエフの名を呼べば円盤が助けに来てくれると話題になっています。実際に屋上からエフを呼んでいる人が相当いるようです。エフの顔を拡大プリントして屋根に貼ったり窓に貼ったりしている人もいるようです。サードブレインのことも騒がれていて、やはり救世主のように思われています。それから自称サードブレインも相当数ネット上に出ています。ヒーロー気取りで外に出て餌食になった人もいるようですね」
 山下はまだ話し足りないようだが、すぐにドクターが立って話し始めた。
「ありがとう、相当酷いことになっているね。自衛隊と警察組織が事前に処方されていたのは痛いね。治安を守れる組織がないから本当にキルケの望み通りの世界になってしまったようだ。早く手を打たないと、悪魔から隠れている人もそう長くは持たないだろう。食料だって底をついてしまう。生きるために外に出なくちゃならないからね。外は弱肉強食だから、体力のある内に行動しないと手遅れになると誰も考えるだろう。そうなると今まで真面目に暮らしていた人も武器を持ち歩くことになる。この人たちを殺人鬼にしたらもう日本は救いようがなくなる。まだ他に情報はないかい」
 ドクターが訊いた。

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