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第7章08 [宇宙人になっちまった]

「さすがね、開いたわ」
 そう言って夢実が微笑んだ。敬一は何が起きたのかよくわからなかった。しかし見上げたドアの上にはセキュリティが解除されたことを示す緑の点灯が見える。
「開いてる、俺が?」
「サードブレインかしら」
 夢実はそう言うと重そうなドアに手を掛けた。中では俺たちの様子をモニターしているに違いないし、中の様子がわからない。二階と一階に兵士はいなかったが、この先には銃を構えて待っているかもしれない。迂闊にこのドアの向こうには行けない。
「俺が行こう」
 浜辺は夢実の前に出てドアをゆっくり押した。金属製の厚いドアが動いて中の様子が少し見えた。
「遠慮しなくていいわよ、歓迎してあげる」
 ドア横のカメラから綾音の声が聞こえた。落ち着いた声だが、楽しんでいるようにも聞こえる。
「待ってろ、キルケ!」
 浜辺がドアの向こうに聞こえるように言った。
「私をキルケって呼ぶのはかわいい浜辺君ね、会いたかったわ」
 綾音は浜辺をからかうように言ったが、浜辺は黙ってドアの隙間から照明装置を差し入れた。
「あら、それが浜辺君の返事かしら。嬉しいプレゼントね。中に入っても大丈夫よ。何もしないわ」
 綾音は少しも動じない。余裕すら感じる。浜辺は黙ってもう少しドアを広く開けた。中は薄暗く、ろうそくの炎がたくさん揺らめいているのが見える。敬一も浜辺の横から顔を少し出して中の様子を観察した。見えるところに兵士はいないようだ。
「敬一君ね、そんなに怖がらなくてもいいわよ」
 綾音が言った。無防備を装っているようにも思える。油断はできない。浜辺が先に足を踏み入れ、敬一も続いた。綾音は二人の持つ照明に照らされ、薄暗い室内に浮かび上がった。和歌山で見た、あの忌まわしい儀式のガウンを身に纏っている。後ろに数人の男たちがいる。顔はよく見えないが、三人のサードブレインもいるのだろう。
壁面には稼働中の多くのモニターが見え、至る所でろうそくの炎が揺らめいている。
「眩しいわ、光が苦手だと思っているのね。その通りよ、眩しい光は大嫌いなの。特に太陽はね。でもね、勘違いしないで。地上にいる悪魔みたいになったりしないわ。嫌いなだけよ。あなたたちの顔がよく見えるように照明を点けてあげる」
 綾音がそう言うと、天井の照明が点けられた。薄暗くてよくわからなかったが、体育館ほどの広さがある。テーブルと椅子がたくさん並び、全ての机上にパソコンが用意されている。
「どう、私が光で力を失うとでも?」
 綾音はそう言いながら肘掛け椅子に座った。浜辺たちの後ろでは職員が綾音に自動小銃を向けている。
「勇ましいわね、私を撃てば問題解決よ。早いほうがいいわ。夜になるとたくさん人が殺されることになるわよ」
 綾音は椅子に座り、薄笑いを浮かべている。浜辺たちはゆっくり綾音に近づき、職員は銃口をまっすぐ綾音に向けた。

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