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第6章29 [宇宙人になっちまった]

 近くにスーパーがあり、入り口付近に店員の制服を着た人が倒れている。お腹の辺りに出血した跡がある。辺りは段ボールが散乱し、商品の野菜や果物が路上に転がっている。
 敬一たちが店内に入ると、奥の方から物音がした。警戒しながら奥に進むと、商品棚の隙間からこちらを見ている人がいる。敬一と視線が合うと、ゆっくり棚から顔を出してこちらを見つめている。
「サードブレイン?」
 小さな声で訊いたのは高校生くらいの女の子だ。
「そうだよ、テレビ見たの?」
 敬一が問いかけると、黙って大きく頷いた。話を聞くと、夜が明けるまでスーパーの事務所に隠れていたようだ。一晩中誰かが入ってきては大きな物音や叫び声がしていたという。ネット上で、明るくなると悪魔が静かになるという話を聞いて、用心しながら様子を見に出てきたと言った。家族とは連絡が取れなくなったようだ。自宅を聞くとこの近くだというので、皆で一緒に家まで送ることにした。
 少し歩くだけで人が倒れているのを見つける。誰も生きている気配はない。閑静な住宅街だが、どの家も窓が割れていたり、ドアが開けっぱなしだったり、何かしらの異変を見つけることができる。女の子の大きな家も一階の部屋の窓が割れて嫌な感じがする。敬一がチャイムを鳴らしたが、応答がないのでドアを引くと鍵はかかっていなかった。女の子が敬一の後ろから親を呼ぶと奥の方から物音がする。カーテンは閉められたままで薄暗い。部屋のドアが開く大きな音と同時に足音が響き、誰かが玄関に走ってくる。敬一が身構えると、中年の女がボサボサの髪でいきなり敬一に襲いかかった。その後ろから父親らしき男も同じように飛びかかってきたが、敬一に押し返され廊下に転がった。表情は引きつり常人の顔ではない。女の子は両手で顔を覆って玄関から飛び出し、敬一も後を追って出た。両親も襲いかかるように飛び出してきたが、直射日光を浴びた二人は急激に大人しくなった。そのまま何事も無かったかのように、しゃがみ込んで泣いている娘の傍を歩いて出て行った。女の子は名前を藤崎奈々と言い、敬一と同じ年齢だった。両親の恐ろしい姿を目の当たりにして相当のショックを受けている。このまま家に帰すこともできず、絵里子や夢実が抱きかかえるようにして行動を共にすることにした。
 駅前を中心にしばらく歩いていると、窓から声をかけられることが何度かあった。昼間なら外を歩いても大丈夫なことを伝えると、腕に白い布を巻いて出てくる人もいた。ネットで情報を知って、食料を調達に歩いている人にも出会った。この地域ではお互いが顔見知りなのだろう、鈍くなった悪魔を襲うような場面は見られない。だけど暗くなると殺人鬼に豹変して、間違いなく自分たちが襲われてしまうのだ。いつまでこの状態が続くのだろうか。夜に犠牲者が出れば、その家族は夜明けを待って報復するかもしれない。そうなればキルケの望む弱肉強食世界になってしまう。それに悪魔がいつも昼に弱いとは限らないから気を抜くことはできない。悪魔のことはまだまだ知らないことも多く未知数なのだ。決して油断はできない。
 駅前周辺をしばらく歩いただけだが、今のところ悪魔は太陽光を浴びると活力が低下するようだ。まるでドラキュラみたいだ。サーチライトでも効果があったから、強力な光源は武器として使えそうだ。敬一たちだけでなく、隠れている人たちも悪魔の弱点を発見してネット上に拡散している。
 地上の様子を円盤に伝えると、エフも予想はしていたようで、その場所でピックアップされるとあっという間に皆の待つ拠点に戻った。

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