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第6章21 [宇宙人になっちまった]

「僕たちが入った通路は防火扉で防げるはずだ。他に入り口はありますか?」
 浜辺がスタッフに訊いた。
「数カ所あるけど、全部鍵がかかって簡単には入れないはずだ。念の為確認しておこう」
 そう言うと、若いスタッフを確認に走らせた。悪魔に鍵は開けられないはずだが、もし悪魔に乗っ取られた人が職員だったらいつものようにカードキーを使えば簡単に開いてしまう。
「中に入っているわ!」
 夢実が叫んだ。下を見下ろすと、人の列が渋滞することなく建物の中に吸い込まれている。
「マズイ! 防火扉の開いているところがある。急いで職員を屋上に上げよう」
 スタッフの一人がそう言いながら走り出し、その後を二人が追いかけるように走り出した。
「ダンプが突っ込んでくる!」
 夢実が叫ぶと、しばらくして鈍い衝突音がした。下を覗き込むと車体半分ほどが入り口近くに刺さって止まっている。白い煙はラジエーターからだ。エンジン部分から火が出て黒煙を吹き出した。
 綾音がこの放送センターを襲うように指示しているのだろうか。知的能力を奪われてもキルケの指示には忠実に動くようだ。乗っ取られた人の能力に量子悪魔の個性が絡み合って、悪魔に乗っ取られた人も千差万別で、恐ろしいほど殺人能力の高い人から、それほどでもない人もいる。共通しているのは強い殺意だ。そんな人の集団がどれほどこの放送センターに向かっているのだろう。全員がこの屋上を目指してくれば、ここはあっという間に殺人鬼で溢れてしまう。
 浜辺がスタッフの一人に何かを指示している。スタッフが無線で何かを話すと、上空を照らしていたサーチライトが屋上に向けられた。どうやら屋上への出口を照らすようだ。
屋上に上がってくる悪魔に光を照射して活動力を低下させるのだろう。
 出口から叫び声や足音が響いてきた。スタッフに誘導されて職員が次々に出口から現れ、眩しそうに目を覆っている。最後の人が階段下を覗き込み、誰もいないことを確かめると重そうなドアを閉じた。屋上側から鍵はかけられない。ドアの前にバリケード作ろうにも、役に立ちそうなものは何もない。若い職員は屋上を探し回り、垂木を何本か見つけ、半分ほどに折って手に持ちドアの前に立った。奴らが屋上に来れば凄惨な殺し合いになる。死を怖れない殺人鬼が下から無限にやってくるのだ。
「みんな、こっちだよ。早く!」
 エフが円盤の上から呼ぶと、声に気づいた敬一が女の人を先に円盤に誘導した。サードブレインならすぐにピックアップできるが、初めての人は円盤の上を歩いて中に入る。敬一たちが最初に乗ったときと同じだ。十数人乗せると屋上ドアの辺りが騒がしくなった。殺人鬼がここまで来たのだ。ドアの内と外で押し合いになっている。

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