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第7章04 [宇宙人になっちまった]

「ドアを開けよう」
 敬一が小声で言うと、後ろから二人の職員が大きな工具をドアの前にセットした。エンジンカッターだ。スタートすると相当大きな音がする。悪魔が大音量にどんな反応をするかもわからない。職員が不安そうに敬一の顔を見たが決断できない。
「大丈夫だと思うわ。中は静かな気がするの」
 夢実が眉間に皺を寄せながら言った。自信がないときの言い方だ。
「よし……やろう」
 敬一はしばらく続いた沈黙の後で職員に言った。エンジンの爆音が屋上に響く。無謀としか思えない。もし自分がキルケならどうするだろうと敬一は考えた。結論はすぐ出る。待ち構えて殺すのが正解だ。屋上の迷彩服の多さから考えると、中にはそれ以上の兵士が待ち構えていることは明白だし、太陽光はないから、研ぎ澄まされた殺人鬼が待ち構えていると考えるのが当たり前だ。
 職員が重そうなカッターを持ち上げ回転数を上げた。回転刃がドアに当たり火花が飛ぶ。ストップシリンダーを切断すればドアは開く。半分ほど回転刃が入ったところでエンジンを止め、敬一はドアに耳を当て中の様子を探った。誰も息を潜めて敬一を見ている。
「静かだ。おかしい」
 敬一はそう言って首をひねった。ドアの向こうでも息を潜めているのかも知れない。頑丈なドアは二枚の鉄板を組み合わせた構造だから、自衛隊の自動小銃では貫通できないのだろう。再度エンジン音が響き、ストップシリンダーに刃が当たると甲高い音が耳に刺さる。その甲高い音が消えてエンジン音も軽やかな音になると、カッターをドアから離しエンジン音が止まった。職員がオーケーサインを出すと後ろに下がり、敬一がドアに手をかけた。
「待って!」
 エフが声をかけた。敬一が振り返ると、エフが敬一の前に出てドアの前に立った。
「僕が一番乗りだね」
 そう言うと振り向いて笑顔を見せた。エフの身体ではかなり重いのだろう、両手をピンと伸ばして懸命に押している。金属のきしむ音がするとドアがゆっくり動き、隙間から中の様子が少し見えた。
「銃だ!」
 敬一が叫ぶと、全員がドアから離れるように動いたが、エフはドアをゆっくり押している。薄暗い廊下に鉛色の銃口が幾つもこちらを向いているのが見える。
「エフ、離れろ!」
 同時に何人かが叫んだが、エフはまだドアを押している。もう半分ほど開いたが銃声どころかなんの音もしない。敬一たちは慎重に顔を出してドアの向こうを見た。思った通り、屋上よりも多くの兵隊が廊下にいて銃口をこちらに向けている。反射的に身体を引いて隠れたが何か様子が変だ。一発も弾が発射されない。

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