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第7章6 [宇宙人になっちまった]

     第八章
 浜辺とドクターは職員と一緒に放送局の中継用照明車両に乗って正面玄関を目指している。途中でふらつく悪魔に取り囲まれてしまい身動き取れない場面もあったが、正面から直射光を当てる方法でなんとか進路を確保して官邸前にたどり着いた。ネットで状況を理解した協力者も多くいて、様々な照明装置を積んだ車両が官邸前に集まっている。集まった中では一番強力そうな照明車を先頭にして官邸前庭に進んだ。先頭の車両は、球場のナイターのような照明装置をクレーンの上に乗せていて、クレーンを玄関前まで伸ばして建物内にまで光を届かせている。数発の銃声が響いたが、すぐにその方向に投光器が向けられ銃声は続かない。官邸前の道路にも、前庭にも照明車で埋め尽くされた。悪魔が逃げ出した兵士はぼんやりした表情で空いた場所に座らされ、官邸前は完全に制圧された。問題は太陽光の届かない官邸内だ。多くの照明が官邸に向けられているが、光は窓から入るのみで、中は薄暗い部分も多くある。迂闊に足を踏み入れると格好の餌食になるだろう。浜辺たちは、ロケ用の照明装置を持ちながら慎重に玄関に足を踏み入れた。ここはまだ光の入りやすい構造で近くに悪魔はいないが、隅の方からこちらに銃口を向けている兵士が引き金を引いた。驚いて頭を下げると照明装置の一つが音を立てて割れ落ちた。他の照明装置を向けたが遠くてあまり効果はない。更に一発銃声が響き、照明装置を持っていた職員がうめき声を出して倒れた。慌てて階段の影に走ったが、兵士はまだ狙っているに違いない。広く開放的に造られた玄関ホールは逃げ場がなく、敬一たちは動けなくなった。状況は逐一ネットでリアルタイムに伝えられている。外にいる仲間から敬一に連絡が入り、その場所を動かないように指示された。近くの工事現場からブルドーザーなどの重機が応援に来てくれるようだ。その間にも照明車が到着して、昼間なのに更に官邸がライトアップされている。もう官邸周辺には悪魔の入る余地はないだろう。道路脇にはたくさんの人がぼんやりした表情で座り込み、悪魔は逃げ出している。どれほどの悪魔が官邸を目指して来ようと、この光の中をくぐり抜けることはできない。キルケは完全に光に包囲されてしまったと言っていいだろう。もう逃げ道はないはずだ。
 官邸に重機が到着したようだ。照明装置を積んだ車が道を空け、重機が重そうな音を響かせ、正面入り口付近を破壊して中に入ってきた。浜辺の位置からも重機の動きが見える。重機の後ろに強力な投光器を積んだ車が続き、兵士は何発か銃弾を発射したが重機に遮られどこにも当たらない。ブルドーザーが兵士の目の前まで行くと、後ろから投光器が兵士に向けられ光が当たった。兵士は急激に力を失い、銃を床に落としてフラフラと歩き始めた。その様子を見ていた浜辺たちは階段の後ろから出てきて、ブルに乗ってきた仲間と笑顔で握手を交わした。階段の上から敬一たちがゆっくり降りて来た。浜辺たちと敬一たちはここで合流すると更に下の階を目指すことにした。エフはまだ階段の上でしゃがみ込んだまま立ち上がらない。相当疲れたのだろう。二階にはレセプションホールがあり、一階にはテレビでよく見る記者会見室がある。おそらくキルケはその先の地下一階の危機管理センターに隠れているに違いない。

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